第19回「だるま寄席」が札幌市豊平区にある「ダルマホール」で開かれたのは、5月17日(土)のこと。開演より3時間ほど前にホールに入ると、「だるま十区」の代表理事で会社員の住出尊史さんらが準備作業にあたっていた。 この日、登場する落語家は柳家花いちさんと柳家花ごめさん。前座から二つ目、真打と昇進していく江戸落語界で活躍中の若手真打だ。2人は東京から到着すると、すぐに高座に上がって声を出す。マイクを通した聞こえ方を確認するのも住出さんだ。

第19回「だるま寄席」が札幌市豊平区にある「ダルマホール」で開かれたのは、5月17日(土)のこと。開演より3時間ほど前にホールに入ると、「だるま十区」の代表理事で会社員の住出尊史さんらが準備作業にあたっていた。
この日、登場する落語家は柳家花いちさんと柳家花ごめさん。前座から二つ目、真打と昇進していく江戸落語界で活躍中の若手真打だ。2人は東京から到着すると、すぐに高座に上がって声を出す。マイクを通した聞こえ方を確認するのも住出さんだ。
準備がほぼ整ったところで、住出さんがスタッフに「やるよー」と声をかける。10人余りで緩い円陣を組むと、「みんなで広げよー、だるまのわ!」と住出さんが両手で頭上に輪を作る。全員が「わ!」と続き、輪がそろった。
と、「だるま」いっぱいで始めたこの記事だが、実は少し前までは「狸」だった。「狸」が「だるま」に化けたのには、コロナ禍が大きかったのだが、化けても変わらないことがある。それは、「札幌に常設演芸場を作り、寄席の定期開催を目指す」という志だ。
そもそもことの発端は、住出さんの母校・市立札幌旭丘高校にある。住出さんの同級生・谷田正宏さんが大学を卒業後、落語家の春風亭柳朝(しゅんぷうていりゅうちょう)となった。谷田さんと親しいわけでも落語が好きなわけでもなかったが、東京出張のついでに寄席に行き、柳朝さんの落語を聞いた。
そこからいろいろ端折るが、住出さんは札幌で柳朝さんの落語会を開くようになり、小樽商大の後輩の金山敏憲さんらと2013年には「狸小路に常設演芸場をつくる会」を作ってしまった。そこに札幌旭丘高校の同級生である司法書士の福井拓史さんも加わり、狸小路のビルの一角で定期的に、「狸寄席」を開いた。実はこのときの話は本誌2020年10月号の特集でお伝えした。

落語を中心に漫才やマジック、紙切りなど「色物」とよばれる芸も挟んでいく。色物は北海道の芸人、最後を飾る「トリ(主任)」は毎回、違う落語家で。「寄席」の形にこだわった。
狸小路は演芸場の多い東京・浅草に雰囲気が似ていて、常設の演芸場を作るのにぴったりだと思っていた。ところが狸寄席を開いていた場所が、オーナーが変わって映画館になった。お寺を借りるなどで何とか開催していたところに追い討ちをかけたのが、コロナ禍だった。
緊急事態宣言で2年間、活動が止まり、メンバーも住出さん、金山さん、福井さんの3人だけになった。やっとウィズコロナの時代になり知ったのが、豊平区平岸の「ダルマホール」。平岸ハイヤーの6代目社長・神代晃嗣さんが、敷地内にあった古いタクシー駐車場を改装して作っていた。
地域の文化活動に熱心な神代さんは、ダルマホールのある本社前で「平岸マルシェ」を始めていた。メンバー3人はそこで神代さんと意気投合、ダルマホールで寄席を再開しようと決断した。
「平岸で始めるのに、『狸小路に常設演芸場をつくる会』ではおかしくない?ってなって、『だるま十区』に名前を変え、社団法人にすることにしました。遊びじゃないよ、本気だよ、というけじめです」と福井さん。3人に神代社長が加わり、理事4人でスタートさせた。
十区とは札幌の全10区。豊平区のダルマホールを拠点に寄席を他の区にも広げていき、いずれは全10区に常設演芸場を作る。それが目標だ。
第1回だるま寄席を開いたのが23年4月。それ以来、真冬の1、2月(飛行機が飛ばないことがある)と真夏の7、8月(飛行機もホテルも値段が高い)を除き、東京から落語家を呼び、月に1回、欠かさず開催している。
第19回だるま寄席では、トリを務めたのは花いちさん。狸寄席では二つ目として出演し、第1回のだるま寄席では仲入り(休憩)前を務めた。トリに並ぶ重要な出番だ。そんなわけで花いちさんとは長い顔なじみ。
「最初は住出の思いつきで始めた『狸寄席』だったけれど、続けるうちに理解してくれる落語家さんが増えていった。花いちさんもその一人」と福井さん。みんな「10区すべてに演芸場を作る」という目標に賛同してくれている。だから、「一緒にドキュメンタリーを作っていきたいよね、あきらめることなく」と語る。
さて、第19回だるま寄席、プログラムは以下だった。
花いち「荒茶」→36号線(漫才)→花ごめ「粗忽長屋」→仲入り→花ごめ「不安な母」→宝玉斎こん太(紙切り)→花いち「アニバーサリー」。花いちさんと花ごめさんは古典落語から入って新作落語という流れ、色物は札幌の芸人さんだ。

終演後、花いちさんに話を聞いた。
「だるま寄席は狸寄席の頃から『古典落語、新作落語にかかわらず、何でも自由にやってください』と言っていただけます。お客さんも何でも受け入れてくださって、とても温かく、ありがたい寄席です」。そう言って、「席亭のお人柄ですね」と続ける花いちさんだった。
席亭とは寄席の主催者で、出演者を決め、プログラムを作っていく。だるま寄席では住出さんで、その温かい人柄は会えばすぐにわかる。
「そもそもは落語好きというわけではなかったのですよね?」と聞いてみたところ、「もともと自分の考えってあんまりないんだけど、受容力があるから」と住出さん。「受容力」とは聞きなれない言葉だけど、感じはわかるな、などと少し考えていたら、金山さんが「飄々として、不思議な魅力の人なんです」と、住出さんの人柄を補足してくれた。
「自分の考えはない」などと言っていた住出さんだが、ちょっと自慢したのが「めくり」だ。めくりとは、高座に置いてある出演者の名前を書いた紙の札。だるま寄席では寄席文字・橘流門下の橘紅樂(たちばなこうらく)さんに書いてもらっているという。
「これを見れば、演者さんもクッとなるから」と、背筋を正す仕草をする住出さん。「これもかかるのだけど」と親指と人差し指を合わせてみせる。お金がかかるよ、という合図に見ていたスタッフが「こらこら」と笑いながらたしなめていた。
とは言え、だるま寄席を10区に広げていくためにもお金の話は大切だ。福井さんに率直に、収支のことを尋ねたら、「赤字です。持ち出しです」と即答。自分たちは本業がある50代だから、多少の余裕もあるのでやっていけると言って、「バカでしょ」と笑う。そして、若い人に“バカ”を引き継がないと、10区という目標は達成できないですよね、と。
とにかくお客さんを増やし、サポーター(法人、個人問わず、1口1万5000円、特典あり)を増やす。それが地元の文化を豊かにすることだから、と福井さん。ダルマホールのキャパは200人だが、これまでだるま寄席での最大集客は150人。今日は前売りの様子で50人くらいだろうか、と言っていたが、開場してみたら60人を超える客足で、スタッフが慌てて椅子を出していた。

平岸ハイヤーの神代社長は、「タクシー会社は地域に育ててもらうもの。ホールを通じて喜んでもらうことは、地域へのお返しであり、タクシー業務にも返ってくると思う」と語る。
気になっていたのが、札幌にはエンターテインメントにお金を払うという文化があまりないことだという。身近な場所に劇場がないからで、近所に住む人がふらっとだるま寄席に来てくれれば、それが新たな文化につながっていく、と神代さん。「僕の理想は、『平岸を笑わせられるようになれば、芸人も大したもんだ』と言われるようになることです」。
地元芸人のこん太さんは、ほぼ隔月でだるま寄席に出演中だ。客席からお題をもらって、即興で紙を切っていく紙切りの芸は独学で身につけた。「最初はなかなか出なかったお題が、スムーズに出るようになりました」とこん太さん。
この日は真っ先に「ライラック」と季節ものが上がり、次が「狸小路の大狸」。狸寄席時代からの常連かもしれない。「私の芸が定番になったのだと思えてうれしいです」とこん太さん。
関わる人に話を聞けば聞くほど、だるま寄席のファンになる。そうだ、エールを送ってもらおうと訪ねたのが、東京・月島にある「東京かわら版」の編集部。日本で唯一の演芸専門誌で、今年で創刊51年。だるま寄席について語ったところ、編集人の佐藤友美さんは「フレッシュなメンバーを中心に回を重ね、一緒に成長している感じがします。寄席として理想的な形だと思います」。
続けるとは歴史を作ることだから、100回になる頃には出演者から「名人」も出てくるはず。名人たちは若い日にだるま寄席に呼んでもらった喜びを覚えているし、お客さんも長く続いてきた思い出にひたれる。「100回記念のだるま寄席は、きっと大々的な会になりますね」と佐藤さん。

最後に再び住出さんに登場してもらおう。今回出演した花いちさんが、翌日、札幌・北区の書店「シーソーブックス」で落語を披露する運びになったことをとても喜んでいた。書店主が札幌旭丘高校の後輩で「こいつが、すごいんですよ」。高校の同窓会でだるま寄席のチラシを配っていたら、声をかけてくれたのだそうだ。「去年は柳朝さんの会を開いて、今回で2度目。花いちさんが本好きだし、いいかなと思って」と楽しそうに語る。
ジャズが趣味で、ベースをずっと弾いている。落語とジャズは「その場で起きたことを楽しむ、セッション感覚が似ていると思う」と住出さん。最後に「住出さんにとって落語とは?」と尋ねた。
「友達です。お客さんも、サポーターも落語という友達を支えてくれるパトロンだと思っています」
第20回を迎える次回のだるま寄席は、6月21日(土)午後3時から林家つる子、三遊亭ふう丈、笑福亭希光の落語のほか、3人による「raku-bang」の演奏も。地元からはテテ、キリガミストちあきが出演。ダルマホールに出かけ、落語、そして演芸の「友達」になりませんか?
(文:矢部万紀子、写真:吉村卓也)

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