クラフトビールは、ブームから文化へ。北海道でも各地で個性豊かなクラフトビールが造られています。その魅力を探りに、千歳市の〈HOURS BEER〉を訪ねました。味や香りだけでなく、ビールがくれる時間そのものを楽しむ。クラフトビールの奥深い世界へご案内します。ビール党のみなさん、必見です!

ビール党のみなさん、「クラフトビール」を楽しんでいますか?
ここ数年、全国各地でクラフトビールを醸造する小規模なブルワリーが続々と誕生し、クラフトビールの世界はますますにぎやかに。現在、日本国内のブルワリーは1000カ所を超えるともいわれ、北海道でも約50カ所で個性豊かなビールが造られています。
そもそもクラフトビールとは、一般に、小規模な醸造所が造り手の自由な発想を生かして造るビールのこと。水、麦芽、ホップ、酵母といった原料をベースに果物やハーブ、スパイスなどの副原料を取り入れたり、ホップや酵母の組み合わせを工夫したりすることで、香りや苦味、色、口当たりまで実に多彩な1杯が生まれます。とりわけ北海道は、良質な水に恵まれ、大麦や小麦、ホップのほか、ブドウやハスカップなど、各地で栽培される農産物もバラエティ豊か。その恩恵を受けながら、地域の素材を生かした個性的なクラフトビールが、道内各地で造られています。
でも、クラフトビールの面白さは、味の違いだけではありません。小さなブルワリーだからこそ表現できる、「誰が、どんな思いでこの1杯を造ったのか」という背景も魅力です。造り手の顔や物語を知れば、ビールの味わい方はもっと広がるはず。
千歳市にブルワリーを構える〈HOURS BEER(アワーズビア)〉の後藤ひかるさんも、クラフトビールの大きな魅力は、造り手の思いが伝わりやすく、それを感じながら飲めることだと話します。そんな後藤さんも、ビールに思いをのせる醸造家。2人の子どもを育てながらビール造りに励んでいます。

「最初に造りたかったのは、自分が飲みたいビールだったんです」
後藤さんがビール造りの原点として振り返るのは、仕事と子育てに追われる日常のひとコマです。仕事、家事、育児で忙しい毎日。初めての子育ては、夜泣きもあり、眠れない日が続きました。年齢を重ねるにつれてやらなければならないタスクは増えていくのに、自分だけの時間はなかなか持てません。そんな毎日の中で、唯一ほっとできたのが、子どもを寝かしつけた後の夜9時。ソファーに腰を下ろし、ドラマを観ながら缶ビールをプシュッと開ける。その時間だけは、誰かのためではなく自分のためのものでした。
「大人になると、頑張ったねとか、偉いねって、なかなか誰にも言ってもらえないじゃないですか」と少し照れたように笑う後藤さん。だからこそ、一日の最後くらいは自分自身に「今日もお疲れさま」と言ってあげたい。ビールを飲んでいる間は、「仕事スイッチ」も「ママスイッチ」もオフ。自分自身に戻り、自分を大切にする時間にする。そんな時間に寄り添う1杯を、同じように頑張る人たちにも届けたい――。その思いが〈HOURS BEER〉の出発点になりました。


〈HOURS BEER〉の商品に「7:00」「9:00」「10:00」といった名前が付けられているのも、その思いから。
例えば「9:00」は、一日の仕事や家事を終えた後、自分を癒やすためのビール。後藤さん自身が苦味よりも甘さに癒やされることから、苦味を抑え少し甘みを残したヴァイツェン系に仕上げました。「7:00」は夕食と一緒に楽しめるよう、料理を邪魔しない味わいに。「10:00」はワイングラスで乾杯するイメージでブドウを使ったビールです。さらに、夕食を作りながら楽しむ「5:00」や、千歳産ハスカップを使い、昼飲みできる「2:30」も。〈HOURS BEER〉が提案するのは、「どのビールを選ぶか」だけではなく、暮らしの中のどんな時間にビールを飲むかという楽しみ方なのです。
もちろん、「飲みたいビール」を思い描くことと、実際に造ることはまったく別でした。醸造設備にはいくつものバルブや配管があり、開閉を一つ間違えるだけで、お湯や麦汁が違う場所へ流れてしまうことも。試験醸造では1000リットルもの仕込みを廃棄したこともありました。急激な沸騰で量が半分ほどになってしまったこともあったそう。そのたび原因を確認し、工程を見直し、また造る。試験醸造と改良を重ね、ようやく販売にこぎ着けました。
「ビールは3回目が本番って言われているんです」
1回目を造り、改善して2回目へ。そして3回目になって、ようやく「めちゃくちゃおいしい」と自信を持てる味になったと後藤さん。それでも完成ではなく、ホップの量や香り、副原料の配合を変えながら、理想の味を追い続けています。


では、クラフトビール初心者は何から始めればいいのでしょう。
「難しく考えなくていいと思います。まずはラベルがかわいいとか、好きだなと思ったものを選んで」と後藤さん。クラフトビールには、思わず手に取りたくなる個性的なラベルも多く、最初はビールのスタイルや専門用語が分からなくても大丈夫。
さらに、いつものビールグラスだけでなく、ワイングラスなど違う形のグラスで飲めば、口当たりや香りの感じ方が変わるのも面白さの一つです。
そして旅先では、その土地で造られたクラフトビールをぜひ一杯。土地の水や素材、そして造り手の思いまで味わえば、いつもの1杯とはまた違う楽しさに出合えるはずです。
(文:菅谷環 写真:會澤浩一)
HOURS BEER
千歳市錦町3丁目3-5
https://hoursbeer.com/
道内で長く愛されているクラフトビールや、今年オープンしたニューフェイスもご紹介します。


2022年から鶴居村の廃校を活用してビールの醸造。直売所もあり。
鶴居村茂雪裡69-8

日本初、野生のホップが発見された岩内町にある泊まれるブルワリー。
岩内町野束505

湧水が豊かな道南・乙部町で造る無濾過のクラフトビール。
乙部町館浦686-2
ここからは特集に関連して会員の皆さんからよせられたコメントをご紹介します。
投稿テーマ『お酒にまつわる、ほろ苦い思い出は?』
2026年10月1日から酒税法が改正。ビールの価格が少〜しだけお手頃になります。
ビールと言えば、シュワッとしたのど越しと、あのほろ苦い大人の味がたまりません。
頑張った自分へのご褒美にも最高ですよね。
そんなビールと同じくらい、ほろ苦いお酒にまつわる思い出はありませんか?
誰かに話したくなる、あなたのほろ苦いお話、聞かせてください。
お酒を飲まないあなたも、ビールのように苦い話、ありませんか?