「ビーチコーミング」という言葉をご存じだろうか。「海岸(beach)を、くしの目のように細かく見る(combing)」ことから名づけられた造語で、海辺の漂着物を拾ってコレクションしたり、アート作品を作ったり、それらの由来を調べたりすることをいう。そして、それを楽しむ人々は「ビーチコーマー」と呼ばれるそうだ。

「ビーチコーミング」という言葉をご存じだろうか。「海岸(beach)を、くしの目のように細かく見る(combing)」ことから名づけられた造語で、海辺の漂着物を拾ってコレクションしたり、アート作品を作ったり、それらの由来を調べたりすることをいう。そして、それを楽しむ人々は「ビーチコーマー」と呼ばれるそうだ。
札幌中心部から車で約40分の石狩浜は、ただいま海水浴シーズン真っただ中。多くの海水浴客で賑わう人気のビーチだが、実はここ、ビーチコーマーにとってもとっておきの場所なのだ。
とはいっても、ビーチコーミングに最適の日には一定の条件がある。台風一過の直後や風が強くなる秋、あるいは雪解けが進む春先などが最適という。風が海から陸に吹き寄せることでさまざまなモノたちが浜辺に打ち上げられるからだ。一体何が見つかるのだろう。
石狩浜のすぐそばにある「いしかり砂丘の風資料館」は、石狩川河口地域の自然や歴史をテーマにした資料館だ。ここでは春と秋の年2回、「石狩ビーチコーマーズ」という野外観察会を石狩浜で開催している。館内には、そうしたイベントで集められたり、寄贈されたりした漂着物が多数展示されているというので、さっそく訪ねてみた。
館内のコーナーは、ガラス製浮玉や漁具、さまざまな形のガラス瓶、木製の器具、ヤシの実、色の剥げかかったビニール製の人形や陶器の破片、ハングル文字やロシア語、中国語の記された缶やプラスチック容器など、実に多彩な品々が飾られていた。
「石狩浜は、日本海を北上する対馬暖流に加え、シベリアからの冬の北西風の影響もあって、数多くの漂着物が流れ着くんです」。そう教えてくれたのは、博物館学芸員の志賀健司さんだ。資料館のオープン時から席を置く志賀さんは、地質学が専門で、海岸の地層や地形を研究しているという。
「本来は、砂や泥が長い時間をかけて降り積もる海底をボーリングし、海の変化や気候の変化を調査していました。しかし漂着物を観察することも、海洋の変化を知るという基本的な考え方が共通することに気づいたんです」
例えば、と言って紹介してくれたのが、オウムガイに似た不思議な貝殻だ。

貝の名は「アオイガイ」といい、館内に設置されたアクリルケースには、半透明の貝殻が大小60個も並べられている。暖かい海に生息するタコの仲間で、どうしたわけか2005年から12年ごろにかけて、石狩浜に大量に漂着したのだという。
近年の温暖化の影響かと思いきや、「海水温の上昇が原因ならそれ以降も発見されるはずですが、ここ数年はほとんど見つかりません。謎の多い生き物で、人間が考えるような簡単なメカニズムではないらしい。海はまだまだ分からないことばかりです。これは漂着物を観察していて、つくづく感じることですね」と志賀さんは話す。
さらに、この浜辺にはもう一つ特徴がある。それは、石狩川の河口に接することから、川由来の漂着物も多数見つかるのだ。石狩川は、北海道全体の面積の約6分の1に相当する流域面積を持つ。そのため、春の雪解け水や大雨などで増水すると、川岸などに降り積もっていたものが掘り起こされて、ついには石狩浜へ流れ着くというわけだ。
「内陸の農村地帯から流れてきた古い農具や、産炭地から流れ出たと思われる石炭や琥珀も見つかります。さらに土器片や、滝川や旭川の店名が入った100円ライターなども流れてきますよ」と志賀さん。
なるほど石狩浜の漂着物は、海の生物から人々の生活史まで、さまざまな情報をもたらしてくれるのだ。
志賀さんによると、ビーチコーマーはそれぞれ自分のテーマを決めている人が多いという。貝殻を収集する人、海外の「浮き」だけを集める人、ペットボトルのキャップを集める人、さらには小さな陶片からそれが作られた場所や時代がわかる人もいるとか。
その楽しさをさらに深く知りたいと思い、志賀さんが紹介してくれたビーチコーマーのもとを訪ねてみた。
最初にお会いしたのは、元北海道教育大学札幌校教授で地質学・古生物学が専門の鈴木明彦さん。ビーチコーミングに関する著作を3冊も持つ、その道の“レジェンド〟だ。
「大学で地質学を教えていた時、学生を連れて石狩浜へ観察に出たのがビーチコーミングとの出合いです。もう20年以上も前のことですが、それ以来、すっかりはまってしまって」と笑う鈴木さんは、地質時代の貝化石の研究者でもある。
かつて海岸漂着物の調査の一環として、仲間の研究者と共に道南の日本海側の海岸を中心に探索し、アオイガイを約1000個も採取したというから驚いた。やはり資料館に展示されているアオイガイの採取時期と同時期のことらしい。
「ビーチコーミングは、遊びの要素があると同時に、ビーチコーミング学ともいえる野外科学の奥深さがあると思います。例えば、浜辺でよく打ち上げられる浮きについても、北朝鮮製は白樺などの木製、ロシアは頑丈なアルミ製、中国はプラスチック製が多い。こうした浮きの素材の違いからも、お国柄や社会情勢が浮かび上がってきます。さらにここ数年では、マスクの漂着が多いそうです。マスクに使われる不織布はプラスチックが素材ですから、海の環境問題を考える機会にもなりますね」。
コロナパンデミックという災厄は、海洋にも意外な影響を与えていたのだ。
鈴木さんに、これまでビーチコーミングで見つけた自慢のお宝を伺うと、「北海道ではありませんが、徳島県の鳴門の海岸で見つけたオウムガイですね」と即答された。なんでも、徳島に出張した折、台風で飛行機が飛ばず、仕方なく鳴門の海岸へ足を延ばしてみたところ、偶然発見したのだそう。鈴木さんは詩人(筆名・若宮明彦)でもあり、海辺の漂着物をテーマにした詩集も編纂されている。
「ビーチコーミングは一期一会なんです」と、その魅力を語る鈴木さんの目は輝いていた。
次に、「石狩ビーチコーマーズ」の常連参加者という澄川大輔さんにお話を伺った。澄川さんがビーチコーミングを始めたきっかけは、「虫」なのだという。一体どういうことなのだろうか。
「海流にのって分布を広げる虫がいるんです。それまで北海道では見られなかった虫が、流木の中に住みつくなどして流れ着きます。虫を調べることで、その時その場所の環境がわかる。そうした虫の変化を長い時間にわたり調べることで、地球環境の変化も見えてくるかもしれません」
そう話してくれた澄川さんは、浜辺で虫の姿を追い求めつつ、漂着物にも目が向くようになったのだという。いまでは、直径30センチあまりのガラス玉やアオイガイの仲間のタコブネ、琥珀など虫以外のコレクションも増えたそうだ。
さらに、澄川さんのビーチコーミング熱は家族にも伝播。今年4月に開催されたビーチコーミングには、小中学生の二人の娘さんと奥様の家族4人で参加した。成果のほどを聞くと、「残念ながら虫は発見できませんでしたが、娘たちと一緒に色のきれいなサクラガイやホオズキガイを見つけました。何より、家族一緒に宝探しができるのが楽しいですね」とうれしそうに話してくれた。


志賀さんによると、4月のビーチコーミングには30人ほどが参加したという。
「1時間ほど海岸を探索したあと、資料館に戻って収集したモノの品評会を開きます。貝や石の種類を事典で調べたり、陶片や漁具に詳しいリピーターに教えてもらったり、毎回ワイワイ盛り上がるんですよ」と志賀さん。今回も貝殻を始め、ガラス玉や古い瓶、ロシア製のボトルやコウイカの甲など、たくさんの収穫があったそう。
こうして誰もが楽しめるビーチコーミングだが、いくつかの注意点もあると志賀さんが教えてくれた。「海岸には、クラゲなど毒を持つ危険生物が打ち上げられることがあります。時々、注射器や劇薬のポリタンクなども見つかることもあるので、軍手などをつけ、素手では決して触らないようにしてください。また、気象情報には十分注意してほしいですね」。
とはいえ、こうした漂着物は見る人によって、ゴミにしか映らない。
「海開きの前には砂浜は清掃されますが、ゴミとして捨てられるありふれたものの中にも、地球や海、あるいは環境のことを教えてくれる情報が隠れています。そうした〝ゴミ〟を漂着物と捉えることで、大きな世界を知るきっかけにしてほしい」と志賀さんは言う。「海からのメッセージ」である漂着物は、同時に「海からの問いかけ」でもあるのだろう。
ビーチコーミングのレジェンドである鈴木さんが綴った、「Argonauta 漂流者」という美しい詩がある。Argonautaとはアオイガイの学名だ。最後にその一節を引用したい。
ふと長い夢からさめると
ここは〈黄金の国〉ジパング
ユーラシアの東縁まで流されたのか
対馬暖流のゆりかごから離れ
北西〈アイノカゼ〉に挟まれ
エゾ・イシカリペツの砂丘へ漂着
「あい風(アイノカゼ)」とは、石狩の浜に春から夏にかけて吹く風のこと。海流と海風に乗り、長い旅の末に石狩浜へ漂着したアオイガイたち。その姿を資料館で観察しつつ、ぜひ海岸へも足を運んでみてほしい。きっとビーチコーミングが持つ魅力とロマンを感じられるはずだ。
(文:井上美香 写真:吉村卓也)

ついつい何かを集めてしまう。そんな「癖」はありませんか?
子どものころはずいぶんと変なものを集めてました。切手は王道で、昔ちょっとしたブームがありました。男子がはまっていたのは牛乳のフタ集め。昔の給食は瓶牛乳でしたからフタはいくらでも出るんですが、貴重なのは瓶にはめる前のきれいなフタ。なぜかこういうのを見つけてくるヤツがいて、英雄視されてました(笑)。どうやって入手したのか、今もって不思議です。
そういえばテレフォンカードなんてのもありましたね。自然系では昆虫、植物、石……。
私は食器が好きなので、収納に困ると分かっていても、いいのを見つけるとついつい欲しくなっちゃいますね。何かを集めたくなるのは人間の性でしょうかね。
みなさま、何かを「集めて」いますか?ぜひお聞かせください。
旅の記念に、と取っておいても殆ど見返すことないんですよね(H)
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