ライ麦パンと言えば、酸っぱくてボソボソとした食感の黒いパンを思い出す人もいるだろう。だが、『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』の著者であるくらもとさちこさんが紹介する「ロブロ」は違う。

ライ麦パンと言えば、酸っぱくてボソボソとした食感の黒いパンを思い出す人もいるだろう。だが、『北欧デンマークのライ麦パン ロブロの教科書』の著者であるくらもとさちこさんが紹介する「ロブロ」は違う。
「おにぎりのような」と表現する人もいる、もくもくとした食感。酸味はまろやかで、バターやペーストを塗れば感じられない程度。発酵によってつくられた旨味と滋味が噛むほどに口の中に広がり、舌が喜ぶパンだ。
食品としてのライ麦は、食物繊維やミネラルをバランス良く含んでおり、健康づくりに役立つことが知られている。一方で作物としてのライ麦は、近年「畑の土を元気にしてくれる作物」として注目されていて、農場ではライ麦生産を積極的に取り入れたいところだ。
十勝平野の中心部にある芽室町に本社を置くアグリシステム(株)では、ライ麦パン普及のための取り組みとして「リジェネラティブベーカリープロジェクト」を2023年から展開。2024年からはロブロを紹介するくらもとさんと一緒に、ライ麦食文化を広める活動を行っている。
アグリシステムは「農薬・化学肥料に依存しない環境保全型農業を広めていきたい」という考えをもって、1988年に起業した会社だ。経営の中心となっているのは、麦や豆などを農家から仕入れて販売する雑穀集荷事業。全道の約500戸の農家と直接契約し、生産物の集荷・選別・加工・流通を自社で行っている。その中で有機農産物を積極的に取り扱い、これから有機農業を始めたいという農場へのアドバイスやサポートも行っている。
「未来の子どもたちのために」という経営理念を設定したのは、現在の社長の伊藤英拓さんだ。「今の子どもたちだけではなくずっと先の世代の子どもたちにまで、よりよい環境をつないでいきたい。そのために、持続可能な農業の普及をはじめとした社会問題に向き合っていく」という姿勢を明確化したのだ。
この「持続可能な農業の普及」という点で、伊藤さんが5年ほど前から注目しているのがリジェネラティブ農業(環境再生型農業)だ。


リジェネラティブ農業とは、土壌の環境や生態系を回復させながら作物を育てる農業だ。土壌の構造を維持するために、土を耕すことは最小限に留める。カバークロップ(土の表面をカバーするために育てる植物)を用いることで、表土の浸食を防ぎ、雑草の繁殖を抑え、微生物などのすみかをつくる。こういった手法によって、「生物多様性の保護や次世代に健全な土壌を継いでいくことを目指す」のがリジェネラティブ農業。土壌の有機物を増やすことでCO2を貯留し、気候変動を抑制する効果も期待されている。
「北海道全体の畑を見ると、除草剤と化学肥料の多投入によって生物多様性が失われている状況があります。一方で、化学肥料や農薬などの価格が高騰して農業経営が苦しくなっている状況もある。また、日本は化学肥料の原料を海外に依存しているので、今後も安定的に確保できるかわかりません。農業経営を持続していくためには、地域での資源循環を大切にした生産方法、環境を回復させていく生産方法を探し、実践していく必要があります」。リジェネラティブ農業の必要性について、伊藤さんはそう説明する。
ライ麦は深く伸びる根が土を耕し、保水性・排水性の良い畑を作ってくれる。あまり肥料を必要としないのに、根だけでなく茎や葉もたっぷりと育つので、収穫後にはそれらを有機物として畑に還元することができる。有機物があれば微生物が増え、微生物の力で有機物が分解・腐食化されていけば、土壌は肥沃になる。
アグリシステムでは2015年頃から、自社の実証圃場でライ麦の栽培を手がけてきた。
「グラウンドのように硬い畑でも、ライ麦を1年育てることで、それなりによい状態にすることができるんです」と伊藤さん。だが、ライ麦はパン屋でもあまり使われていないので、生産を拡大しても売り先がない。現状では「パン屋さんに100種類のパンがあるとしたら、ライ麦は1種類にちょっと使うだけ」なのだ。
そこで立ち上げたのが、「パンづくりを通じて、次世代に健全な土壌を紡いでいく」をコンセプトとした「リジェネラティブベーカリープロジェクト」だ。
「環境への配慮や土づくりは、今までは農家だけでやってきました。これからはパン屋が、環境再生型農業を応援するためにライ麦パンを作る、そういった意識を広げられたら」と、伊藤さんは思いを語る。
パン職人に環境再生型農業の応援を呼びかけるプロジェクトの立ち上げに踏み切ったのは、アグリシステムがこれまで、生産者とパン屋などの実需者、そして消費者とをつなげる取り組みを継続的に行い、関係性を作ってきていたから、という背景がある。
例えば、毎年6月後半に実施している「北海道小麦畑ツアー」。これは全国のパン職人に小麦畑や製粉工場を見てもらい、生産者と対話し、交流を深めるのが狙いのイベントで、例年80〜100名が参加している。
「対話による相互理解が深まり、現在の、関係性や情報が分断された流通とは全く違う、互いを尊重しあう関係ができるイメージが生まれ、リジェネラティブベーカリープロジェクトにつながりました」と伊藤さんは説明する。
これまでつながりがあったパン職人たちにプロジェクトへの参加を呼びかけたところ、多くの反応があった。2023年に開催された「国産ライ麦応援プロジェクト」では、コンセプトに賛同したパン職人11人が、国産ライ麦の魅力の共有やより良い環境を未来につないでいくためのアイデアなどについて熱く語り合った。翌2024年度からは、全国各地でリジェネラティブベーカリーの勉強会を実施し、これまでに235名のパン職人が参加した。
「思っていた以上に共感してくれて、環境再生のために協力するよ、と言ってくれた。お金のためだけに行動するのではない、時代は変わったな、と思いました」。

ロブロはデンマークで1000年以上作り続けられている伝統的なライ麦パンだ。ライ麦全粒100%で作るのが基本で、ライ麦と水を発酵させた元種(サワー種)に、ライ麦、水、塩を加えて作る。
くらもとさちこさんの『ロブロの教科書』は2024年5月に出版されると同時に、多くのパン職人の注目を集めた。
「本とロブロ文化の紹介のために来日していたくらもとさんと出会い、非常にいいタイミングなので一緒に活動することになりました」と伊藤さん。2024年度からの勉強会では、前半でロブロの作り方などを紹介し、後半でリジェネラティブ農業を学ぶ構成をとった。
「くらもとさんが紹介するロブロは、砕いたライ麦も使うのがポイント。粉だけだと口溶けが今ひとつで日本人には重たいパンになります。粒状のライ麦を配合したレシピは食感がよく、日本人に向いている」。本格的なライ麦パンが消費者に受け入れられるかどうか懐疑的だったパン職人たちも「これなら」と頷きあったという。
「最初は、世界の多くの文化の一つとして、日本にロブロとデンマーク文化を紹介できればと思っていたんです」とくらもとさん。くらもとさんは30年以上デンマークに在住し、大学で栄養学を学んだ後は幼稚園に勤務、給食提供などの仕事に携わった。ロブロの紹介のために来日し、日本の幼稚園を訪問して驚いたのが「子ども達が便秘で苦しんでいる」「顎の発達の遅れが問題となっている」ということだ。
「デンマークでは聞いたことがありませんでした。考えてみれば、デンマークでは小さな頃から、食物繊維たっぷりのロブロを食べているんですね。ロブロは噛み応えがあるので、ゆっくり噛んで食べる習慣も身につきます。改めて、ロブロはいい効果のある食べ物なのだと認識して、紹介することで日本の皆さんの健康のお役に立てればいいな、と思うようになりました」。
気候が寒冷なデンマークでは、昔は冬に野菜を育てることができず、そのため少し前までは、野菜を年中たっぷりと食べる習慣があまりなかったそうだ。ライ麦を全粒で使うロブロには、野菜不足を補うミネラルや食物繊維が豊富に含まれている。そのため、食事を白米のおにぎりや麺類だけで済ませるよりも、ロブロを食べるほうが健康的。食物繊維が食後の血糖値の急上昇を抑えてくれるので、血糖値スパイクが起きづらい上に腹持ちがよく、腸内環境の改善にも効果を発揮してくれる……と、くらもとさんは説明する。
「デンマークでは1000年以上の文化ですから、日本にライ麦食文化を普及しようとしたら、10年は必要なのかもしれません。けれど土壌と人間の健康のために、粘り強く理解と共感のつながりを広げていきたいですね」と、伊藤さんは力強く語る。
(文:岩﨑真紀 写真:吉村卓也)


風土火水(帯広市西10条南1丁目)
toi (音更町上然別北6線)
加納製パン (帯広市西15条南12丁目)
パンドゥランドネ(東川町北町3丁目)
※定休日・営業時間等は各店のウェブサイトをご覧ください
今年も暑い夏でした。といっても、8月の終わりになってもまだ暑さが居座っていますが……
これが終われば秋。今年の農作物はどうだったでしょう。
暑さに負けず、作物はきちんと育ったのかちょっと心配。
農業王国の北海道、一面緑となった農地もだんだんと色を変え、収穫を迎える時期になってきました。
小麦、大豆、トウモロコシ、タマネギ、カボチャ、リンゴ、そば、ナシ……。
この時期ならではの農産品がたくさん並びます。
みなさんにとって「秋といえばこれ!」という味覚はなんでしょう?
あなたの美味しい秋、ぜひ教えてください!
毎日松茸なんて羨ましい限りです・・・・(H)
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