まちの小さな本屋さんが消えていく中、新しい視点で本を届け、人と人を結ぶ空間が見直されている。SNS全盛期の時代だからこそ、直に手に触れる書籍の魅力を信じ、伝える人たちがいる。足を運んでみれば、きっとあなただけの心に刺さる「物語」が見つかるはず。

まちの小さな本屋さんが消えていく中、新しい視点で本を届け、人と人を結ぶ空間が見直されている。SNS全盛期の時代だからこそ、直に手に触れる書籍の魅力を信じ、伝える人たちがいる。足を運んでみれば、きっとあなただけの心に刺さる「物語」が見つかるはず。
「紙の本は年々減っているとはいえ、年間6万冊以上、毎月5千冊もの本が新たに生まれている。自分がつらいとき、悩んだとき、本に救われてきた。自分なりの恩返しがしたい」と、あえて新刊本にこだわり、道東を拠点に出張販売しているのは、「月のうらがわ書店」の長谷川彩さん。店舗を持たず、十勝をベースに釧路、北見、遠軽、斜里などのカフェやイベント、ときには町の図書館にも出張して、場に応じた本を選び、販売する。
東京出身、転勤族の両親のもと本州を転々と過ごしてきた。北欧に似た冬の静かな雰囲気に惹かれて北海道にやって来た。移住前、キャリアを身に付けたいと、神奈川県「湘南 蔦屋書店」のオープニングスタッフとして4年勤務。そこは、書店を核にいくつもの専門店が有機的につながる都会の大型書店で、出版の総合的な知識や経験を積んだ。さらに、ブックディレクターの幅允孝(はばよしたか)さんが営むBACH(バッハ)で編集スキルを身に付けた。
1回の出張販売で並べる新刊本は数百冊。徹底した情報収集で一般の書店では埋もれてしまうような「ベストセラーではない本の売れ筋」をたくみに選び、訪れた人の琴線に触れる時間を提供する。

印象に残る本との出合いがある。それは看取りをテーマにした「人のさいご」。在宅医療に携わる訪問看護師らが企画したわずか44ページの内容だが、人が亡くなる間際の現象について、看護と介護の観点から分かりやすく伝え、家族や身近な人、そして本人がどうあるべきか考えさせてくれる。「死」という重たいテーマなのに、柔らかい表現で読む人の気持ちを優しく包む。
長谷川さんが連載している十勝毎日新聞のコラムでこの本を紹介したところ、想像を超える反響で、飛ぶように売れたという。長谷川さんは「私自身、3年前に父を亡くし、涙なくして読めなかった。死や人の痛み、マイノリティが受ける苦しみなど、自然とそうしたテーマを扱うことが多い」と語る。
長谷川さんが企画する読書会への参加を「毎日のモチベーションにしている」という声や、お金に余裕がないのに本を買ってくれるシングルマザーなどの存在が、励みになっている。人は悩んだとき、苦しいとき、悲しいとき、よりどころとして「知」を求めるのかもしれない。地方では大型書店の存続は厳しくても、人がいる限り必ず需要はある。そう信じて、長谷川さんは「小回りのきく、『本のなんでも屋』として、求められる場所に出張していきたい。これからは特に中高生たちに、良質な本に出合う機会をつくっていきたい。私の生き方が、地方では数少ないサンプルにもなれば」と話す。
日本国内の新刊本出版点数は2007年の7万7417点をピークに、減少のトレンドに入っている(総務省調べ)。2010年代に電子書籍が台頭して市場構造が大きく変わり、いわゆる「まちの本屋」は減少している。北海道内も同じ状況をたどっているが、本は形を変えて私たちのもとへと届けられている。
十勝東部の浦幌町。主産業は一次産業。山や海に囲まれた中山間地域を含む小さな町だ。メインストリートと呼ぶには少し寂しかった通りに2023年10月、「トリノメ商店」はオープンした。店舗面積は約300平米。間口はそれほど広くないが奥行きがあり、手前に本と雑貨、古着を混在させたショップ、後方に十分な広さのカフェがある。
「店名は日常から距離を置いて、鳥のように俯瞰した視点でものごとを見られるようにと名付けられた。ほっと一息つけるような空間にするため、あえて刺激の強い内容や、売れ筋であっても暴力的なミステリーなどは置かないようにしています」。本のディレクションを任されている、竹田風子さん(表紙写真:右)は語る。
この店を運営するのは、町の元地域おこし協力隊が立ち上げた株式会社リペリエンス(小松輝代表)。「浦幌町に外から人の流れを作り、町で暮らし続けたいと思う人を増やしたい」と2019年開業、その後宿泊業と地域内事業者向けの就業促進事業を立ち上げた。
2つの事業が軌道に乗る中、なぜ「本屋」だったのか。現在は町を離れたが、東京から移住体験に来た、20代女性の「どんな小さな町にも本屋が必要」という言葉がヒントになった。宿泊施設のチェックイン・アウト前後の滞在場所にもなればと、金物店だった築50年の空き店舗を買い取った。一連の動きが地域住民の心も動かし、資金が集まり、床の張り替えから塗装まで、店の改装はほぼ町民たちが手作りした。

町民が提供してくれた書棚や什器の数々は、統一感はないものの、味わい深い雰囲気づくりに一役買っている。こうした背景もあり、まちづくりやローカル、スモールビジネスをテーマにした本が人気だ。「自分自身を大切にし、他者や地域の幸福、持続性も考えられるように」(竹田さん)と、「利他」や「ジェンダー」に関する本も手厚い。町の博物館と連携した書棚もある。「『この本がここで手に入れられるなんて』と驚く声や、『初めまして、の本をここで迎えた』といってもらえた時が一番うれしい」と竹田さん。
書籍の約8割は古書で特に絵本は手に取りやすい価格に設定している。本だけではない、初夏の海岸沿いに自生する濃いピンク色の花「ハマナス」(町の花)を原産とした化粧品、花をモチーフにしたブローチやスカーフ、町の自然素材を使ったクレヨンなどの雑貨もグラデーションとなって、本と共に店内を形づくっている。
浦幌町は2025年12月、町の人口が4千人を初めて切った。しかし、20、30代の転入が転出を上回る「転入超過」が近年続く。カフェ部門を任されている、札幌市出身の須田賜生さん(表紙写真:左)は「この町には、よそ者を受け入れてくれる土壌がある。40代、50代の移住者も活躍していて刺激を受ける」と話す。竹田さんも須田さんも週2、3日、トリノメ商店で働きながら、別の仕事「副業」を持つ。こうした柔軟な働き方も若者に支持され、多様な視点が店づくりに生かされているようだ。
大都会の札幌市でも、大手取次店を通さない個人経営の書店や蔵書を展示する「私設図書館」など、本と触れ合える空間が増えている。個性的な店舗が点在する市電「西線6条電停」の一帯にある、シェア型書店「よはくの本やさん」は、2025年11月にオープンした。店内には、高さ約2メートルの木の本棚が四方に配置されている。30センチ四方、奥行き30センチに区切られた一つひとつの棚が「本屋さん」であり、オーナーがそれぞれいる。
棚オーナーの「パグちゃん」は、2つの棚に大好きな作家内館牧子、永六輔の書籍を並べて販売している。これまでも自分が読んできて、よいと思った作品を図書館に寄贈してきたが、「寄贈先も少なくなり、ずっとこんな本屋さんがほしかった」という。ほかにも内外の小説、絵本、児童書、専門書などさまざまなジャンルの書籍が並び、「なぜ、この本を選んだのか」と、つい棚オーナーの人生にまで関心が引き付けられる。


いわゆる「推し本」ばかりではない。「ミサキ文庫」と名付けられた棚は、オーナー自身の月経困難症の体験をつづったエッセーなど、3種類の自費出版本を並べている。近年、若者を中心にじわりと広がっている個人編集の出版物ZINE(ジン)の比率も高い。アクセサリーや小物雑貨、手描きのカードなどクラフト品も販売されている。これまでイベントごとに作品を出展してきた作家たちにとって、常設の「店」は、願ってもない自分を表現できる貴重な場所だ。
オープンから2カ月がたち、棚の3分の1以上が既に埋まった。オーナーの小川順子さん(45)は、人の「好き」と「好き」を結び付け、棚を月額で貸し出す「シェア型書店」というビジネスに、どうして行き着いたのだろうか。
偶然だが小川さんも浦幌町出身。大学卒業後、38歳まで地元の農協で正職員として勤めていた。総務系の人事労務や直営スーパーのバックオフィス業務を通じ組合員の貢献につながる仕事に充実を感じていた。ただ日本の多くの組織は、定期的に部署間の異動が伴う。「そろそろ異動かなというタイミングもあり、慣れ親しんだ農協とは違う民間企業で働きたかった」と、退職を決意。その後いくつか民間企業を経験するが、40歳で心身を壊し、会社を辞めた。
「これまでの私は、正社員に固執していました。たとえ結婚してもパートではなく正社員でいたいと」。どこかで無理をしてきた自分を解放するために、リセットの旅に出た。旅先では日本の伝統工芸に触れる機会も多く、その経験が現在の棚運営にも生かされている。
リハビリとして士幌町の「道の駅ピア21しほろ」でアルバイトも経験。この場所を民間委託で経営する農家兼オーナーの堀田悠希さんの経営方針や地域の「ヒト、モノ、コト」を受け入れて、つなぐ手法に大きな刺激を受けた。
「経験を重ねるうちに、ふんわりと『自分の店をもちたい』、『好きなようにやってみたい』と思うようになりました」。自分の得意なことは人と人をつなぐことと考え、本や手芸を通じて「好き」や「思い」が行き交うシェア型書店の経営に行き着いた。客と棚オーナーをつなぐワークショップやオーナー間の交流も定期的に重ねている。
「今思えば、もっと早く転職や自営をすればよかった」と、小川さんは肩の力を抜いて前を向く。
逡巡の先にあったのは、ここでもやっぱり「本」だった。
(文:酒井花 写真:吉村卓也)
私の場合、昔はよく行っていたけど、最近あまり行かなくなった場所の一つが本屋さんです。だんだん本屋さんが少なくなってきましたよね。地方では町から本屋さんが無くなってしまったところもあります。ネットの普及で、オンラインで本を買うことがぐんと増えました。
でも、本屋さんに入って平積みされた本を眺めたり、お店の人の書いた宣伝文を読んだり、思いもよらなかった本にめぐり逢ったりするのは楽しいものです。新刊書が醸し出す、紙の匂いもなんともいいですね。学校帰りに本屋に寄るのも好きでした。
最近本屋さんに行っていますか?
本屋さんの思い出ありますか?
あなたの本屋さんのお話、どうぞお聞かせください。
※またやってしまった!
初日の朝、次の号のテーマと今月号のテーマを間違えて出してしまいました。
正しいテーマは「本屋さん」です。
朝早くから書いて下さったみなさま、次号用にストックさせていただきます!
プレゼント応募には影響ございませんのでご安心ください。
同テーマは来月また出しますので、また書いていただいてもOKです。
誠に申し訳ございません!
(2026/02/16、午前7時25分、驚きと自己嫌悪の中で記す...)
ネットでお目当ての本だけ買う、というのは効率的ですが思いがけない知との出会いはありませんよね(H)
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