

政治とカネの問題の追及は、社会部記者に課せられた至上命令だった。
東京社会部にいた2007年、当時の第1次安倍内閣は足元が揺らいでいた。農水相だった松岡利勝氏が事務所費問題発覚後に自殺。その後任の赤城徳彦氏も事務所費問題で辞任に追い込まれた。
国民に見えないカネで政治が左右されることは許されない。東京社会部では調査報道班を結成し、大量の収支報告書と格闘しながら安倍内閣の政治とカネの問題を追った。私はその担当デスクだった。
赤城氏の後任として農水相に就いたのは、山形選出の遠藤武彦氏。その遠藤氏の地元での評判を聞こうと山形総局に電話をした。このとき、電話に出た記者から、遠藤氏が組合長をつとめる農業共済組合に関する匿名の手紙が総局に届いていることを知らされた。ファクスで送ってもらった文面には、組合が国から補助金を不正に受給している疑いが記されていた。
社会部と山形総局の総力を挙げた取材が始まった。関係者の聞き取りなどで事実確認はできた。だが、遠藤氏本人と連絡が取れない。記事にするには当事者の弁明が不可欠だ。そんな中、遠藤氏が山形から新幹線で東京に向かっているという情報をつかむ。8月31日夜、東京駅から迎えの車に乗り込もうとしている遠藤氏を取材班の記者がつかまえた。
「正式の場で。歩きながらでは答えられない」
そんなコメントとともに、9月1日付けの朝刊1面トップに記事が載った。
2日後、遠藤氏は辞任。その9日後、安倍首相が辞意を表明した。
新聞のチカラを、いまこそ信じたい。
朝日新聞 前北海道支社長 山崎靖