
篠田二郎さん(89)は「らくら宮の森」に入居して6年目だ。妻の博代さんは自宅に住んでいるが、毎日篠田さんのところにやってきて、ご飯を一緒に食べる。ここでは家族はいつでもウェルカムなのだ。コロナ禍で多くの施設が家族との面会も控える中、細心の注意を払いながら、家族との面談を遮断しないのはこの施設の方針だという。それはらくらグループの代表、浅沼静華さんの考えでもある。
「このような状況の中で家族に会えない、話せない。そのストレスが健康に与える影響の方が重大だと思います」と浅沼さんは言う。現在のコロナ禍で、知らない人は原則入館禁止だが、家族は別だという。
施設での暮らしの様子を篠田さん本人に聞いてみた。かなり耳が遠いので、妻の博代さんがこちらの質問を耳元で大きな声で復唱してくれる。長く座っていると腰が痛くなるということで手短にインタビューさせてもらったが、声は大きく、言葉は明快。若い頃の仕事の話、札幌で新しく私立女子短期大学を立ち上げた話など、その話はもっと聞いていたくなるほど面白い。
博代さんの耳元での大声に反応しながら楽しそうに笑う二郎さんを見ていると、順調に進んだ高齢者施設への引っ越しのように思えるが、実は入居を決める前には、博代さんは精神的に相当参っていたという。認知が進み、体も思うように動かなくなる夫の世話で、心身ともに疲れ果てていた。「このままでは自分がおかしくなる」と思い、何とかしないとと切羽詰まったときに出会ったのがこの施設だった。家族の出入りが自由で一緒の食事も外出も可能なこと、お風呂も好きなときに入れること等、サービスの内容もさることながら、一つ大きな決め手となったのが「ペットを飼えること」だった。愛犬と一緒に暮らしていた夫妻にとって、篠田さんがペットと離れずにいられるのは何よりありがたかった。ペットを飼える高齢者施設というのはかなり稀である。犬のフロア、猫のフロアがあり、部屋で飼う事ができるのだ。最初の犬は残念ながら途中で亡くなったが、今は次の犬を博代さんがトレーニング中で、二郎さんは同居の時期を楽しみに待っている。
らくら宮の森 札幌市中央区宮の森2条16丁目1−38 TEL 011 - 616 - 9779
らくらグループ代表の浅沼さんは、実は父の始めた高齢者施設を40代で受け継いだ二代目だ。それまではスイスで金融関係の会社を共同経営していて、海外生活が長かった。ところが父が脳梗塞で倒れて施設に入る事になり、しばらくスイスと日本を往復して介護を経験することになる。スイスでの高齢者の多くが退職を心待ちにし、人生の最後のご褒美のように「あれをやろう」「これをやろう」と活発に活動をし社会参加をしているのを見て、日本の高齢者の置かれた現状に疑問を抱くことになった。また、父が最初に入居した施設で、車椅子からずり落ちそうになっている父が放って置かれている姿に心を痛めた。
全く縁がなかった介護の世界に飛び込んだのは、そんな私的な体験があった。ネガティブなイメージではない高齢者施設、これまでの生活をそのままスライドして暮らせるような施設がモットーだ。「施設で暮らしながら私達のケアで在宅に戻る、そんな『粋に生きる』人を多く輩出し、それを多くの人に見てもらいたい」と浅沼さんは話す。「粋に生きる」とはどういうことか。
「自分の信念がある人、頑固でなく寛容、新しいことに楽しみを見出せる人、情熱、愛情があり、周りに影響力を与えていける人」と、浅沼さんは定義する。
そんな人を実際に見れば、殻にこもった人もだんだんと「自分もできるかも」と思う。全国で「粋に生きる」高齢者を紹介していきたい、と浅沼さんの夢は広がる。
※らくら宮の森は「住宅型有料老人ホーム」。らくらグループは道内で計13の高齢者施設と在宅事業所を運営し、他に高齢者向け配食事業、老人ホーム紹介業も手掛けている。

