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五輪シンボルが目立つ大橋を抜け、札幌・藻岩の山々の万緑が囲む中にASA川沿澄川はあった。ここで所長を務めるのは佐藤駿さん。今年7月にはASA川沿を創業して7周年を迎えた。先月からはASA澄川も担当することになり、再スタートを切ったばかりである。この仕事を始めるきっかけは、父からの急な呼び出しだったという。18歳で実家を離れ、結婚し、子どもも産まれ、新聞とは関わりのない日々を送っていたある日の出来事だった。何事かと駆けつけると、一言「所長になれ」と告げられた。
佐藤さんは小学生の時から、所長を務める父の仕事を手伝い、冬にはソリを使って徒歩で新聞を配達していた。その頃を振り返って、「この仕事は嫌だと思っていたし、父親も息子に新聞販売に携わってほしいと考えていなかったと思う」と語る。父の言葉はまさに青天の霹靂であった。修業は6年半に及んだ。「たしか2年で所長になれるって話だったんだけどな」と苦笑い。深夜に届く朝刊を配達し、日中には集金や営業、日が暮れたら夕刊の配達と目まぐるしい生活だった。そんな過酷な環境でも、所長になるという意思が揺らぐことはなかったという。思いがけず始まった日々であっても真摯に向き合ってきたのは、やはり父の背中を見てきたからだろうかと思わずにはいられない。


川沿の所長になってからはその地形に悩まされた。修業した北区と比べて積雪は少ないように感じるが、山が囲むこの地域は坂が多い。特に冬の凍結した路面での配達はリスクを伴う。それでも佐藤さんにはこの地域を背負っていきたいという目標を持つ。「欲はない」と話しながらも、従業員が安定した先を見通せる環境を整えようという姿勢に、所長としての覚悟が表れる。
地下鉄南北線澄川駅西口の目の前にある「一の星」は、佐藤さんの行きつけの海鮮居酒屋だ。ここは佐藤さんが慕うかつてのASA澄川所長が愛したお店である。今では業界の仲間が偶然居合わせることもある特別な憩いの場だ。佐藤さんのおすすめは「刺身の盛り合わせ」。厚みのあるマグロは、自然な甘みが口いっぱいに広がり、箸が止まらなくなる逸品だ。美味しい食事とお酒を手に語る佐藤さんの表情は、一番星のようにきらめく。(文・写真/新開なつみ)