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夏の日射しにきらめく海面。浮き輪を持った子どもたち。花田さんのお父さんはこんな風景が見たかったのかもしれないと思いながら、温かい潮風の中を歩いた。
「ここに店を構えたのは、海の見える場所がいいという父の夢を叶えるためだったんです」と話してくれたのは、ASA函館湯川の所長・花田拓之さん。病で伏せっていた父の後を継いで、9月には10年を迎える。花田さんが所長になったのを見届けて、3週間後に父は亡くなったという。「きっと安心したんでしょうね」と穏やかに微笑む。
父の仕事を見て育った花田さんは、小学5年生の時から友達と一緒に新聞配達をお小遣いがもらえる遊びの感覚で楽しんでいた。高校生の頃には集金業務も任されるように。父は「継がなくていい、好きなことをやればいい」と言っていたそうだが、病気がちな父を支えることは花田さんにとって当たり前のことであった。
目の前に海、背中には山というこの場所は、近くにキャンプ場もある。その豊かさゆえに自然界の脅威に見舞われてきた。今年は特に多く、7月末には津波警報が発令され、8月にはヒグマが目撃されている。「新聞を届けるという使命もあるが、人命が大事だということを改めて感じた」と語る。従業員の安全な勤務環境に心を砕く花田さんにとって、判断を迫られる緊迫した状況だっただろう。従業員との関係について伺うと「仲良しなんです」と笑顔で一言。「人手不足に負けない、余裕を持った体力のある店にすること」と、今後の目標を語るところからも従業員を大切にする花田さんの思いがひしひしと伝わってくる。

花田さんの行きつけのお店は、湯の川温泉街からほど近い海鮮居酒屋「笑まる」。友人のお兄さんが店主で、お金のなかった20代の頃から「飲みにおいで」と声をかけてくれたという。おすすめはもちろん海鮮料理。中でも伊達市で板前をしていた店主が握る寿司は格別の美味しさだ。
お店に向かう道すがら、地元の人々に声を掛けられる花田さん。楽しそうに談笑する姿を見ていると、お客さんから蜂の巣の駆除や電球の交換を頼まれる距離感がうなずける。短い取材の中でも、家族や従業員を大事に思い、地元の人に愛される花田さんの親しみやすい存在感を垣間見ることができた。
(文・写真/新開なつみ)
函館市銭亀町283-43