
日高山脈を背景に、馬が牧草を食む壮大な光景に息をのむ。午年の2026年の取材始めは、日本有数の馬産地として知られる日高地方に赴いた。昨年ドラマでも注目を集め、何かとホットな新ひだか町で新聞販売店を営んでいるのは、ASA静内所長の西口文彰さん。今回は新ひだか町の隣、浦河町で一家が代々営んできた商店でお話を伺った。
今から150年以上前に金沢からやってきた先祖が浦河町で小売業を創業。祖父の代から新聞販売も手掛けるようになった。西口さんは新聞販売店所長としては三代目である。少年時代には当たり前のように配達業務も手伝っていた。先代である父は語学に堪能で、全国紙の海外特派員として活躍していたが、病気を機に記者を辞めて商店を継いだ。西口さんが大学4年生の時、その父が亡くなり、実家には母が一人残された。どこかで「いつかは地元に戻って、継がないと」と思いつつ、東京で映像メディア業界に就職した。今でも映画は好きだという。

地元に戻って母を支え、家族を持ち、家業を継いで40年が経った。15年前の東日本大震災の時には、3メートル近くの大津波に襲われ、昨年12月には、青森県沖地震で40センチの津波が到達。幾度となく海の脅威に見舞われてきた。「災害や何かあったとき、結局は従業員さんとの人間関係が響いてくる。長くやっていると身に染みて分かるよ」としみじみと語る。2018年9月の北海道胆振東部地震は、新聞の配達準備をしている明け方に発生。従業員が発電機を持ち込んでくれ、その電気を使って照明を灯し、広告を折り込む機械を稼働させた。西口さんが大切にしてきた従業員との関係性が見えてくる。また浦河沖で漁船が沈没する重大な事故が起きた際には、新聞社の記者が販売店を拠点に取材に回っていたという。販売店は時に取材の最前線をも支える。
「これから先はどうなっていくか全く分からない」とこぼしつつ、フェイクとファクトが入り混じった世の中で教育現場に新聞を浸透させる重要性も語る。「学生たちに読んでもらうためにも、まずは先生方に手に取ってほしい」と話す。静内の先生らは新聞に関心を寄せてくれているそうだ。

取材中に地元の方が訪ねてきた。「西口さん頼むよ」と交わされる言葉からその存在感を感じずにはいられない。地域の人々の生活と情報インフラをこれまでもこれからも支え続ける。
(文・写真/新開なつみ)
ASA静内 所長 西口文彰
〒056-0025 日高郡新ひだか町静内木場町2丁目5-32