このWebサイトの全ての機能を利用するためにはJavaScriptを有効にする必要があります。
>HOME  >よみもの一覧  >新聞記者に聞いてみた  >「知床観光船事故を取材して1年」(2023/6/19)
新聞記者に聞いてみた vol.3

知床観光船事故を取材して1年

公開:2023年6月19日
新聞記者に聞いてみた
2023年5月8日、道内面の佐野記者の署名記事
2023年5月8日、道内面の佐野記者の署名記事

 2022年4月23日、知床の海で、信じられないような観光船の事故が起きてから1年以上が過ぎました。事故発生当初から知床に何度も通い、多くの記事を書いたのが佐野楓記者です。知床観光船事故に向き合った1年間はどんなものだったのか。佐野記者に聞きました。

− 事故の第一報はいつだったのでしょうか。

佐野(以下「佐」):4月23日は土曜日でした。私は休みで、町で用事を済ませたあとに家に帰る途中で、ちょうど札幌のサクラの開花日で大通でサクラを見たりのんびりと過ごしていました。帰宅途中に午後4時20分過ぎのデスクからの一斉メールで知りました。まさか自分が行くことになるとは思っていませんでした。

− どうやって現地に入ったのですか。佐:社の車を手配して私と記者3名、運転手さん1名の計5人で午後10時に札幌の会社を出発して知床観光船の事務所を目指しました。途中、どんどんメールが入って来て状況は予断を許さなくなってきていました。これからの取材を考えると不安と緊張で一睡もできなかったです。内陸を走っているときは実感が

わきませんでした。夜が明けるくらいのとき斜里に着いて、ようやく海が見えました。暗い海でした。打ちつける波しぶきだけが白く見えました。それまでは、どこかに漂着しているのではないか、泳いで助かっている人もいるのではないかと思っていましたが、あの海を見て絶望的な気持ちになったのを覚えています。現地着は朝の4時過ぎでした。

− 現地の様子はどんなでしたか

佐:現地に着いたら報道関係の車が40台くらいが長蛇の列です。上空には海上へ向かうヘリコプターが飛び交い、騒然としていました。知床観光船の事務所の前で待機しましたが、動きがありません。本社からの応援記者も来るので、ホテルの会議室を借りて取材拠点の立ち上げ作業をしました。数時間後に国土交通大臣の視察があり、それが私の第一稿となりました。

− どのくらい知床にいたのですか。

佐:結局5月10日に一旦荷物を取りに札幌の自宅に帰りましたが、1泊で知床に戻りました。6月3日に斜里町の現地対策本部が閉じられたのを見届けて、翌日札幌への帰路につきました。その後も事故半年となる10月まで、毎月複数回知床に通いました。

− 主にどんな取材をしていたのですか。

佐:海から始まっている事故なので、海に関わる方、漁師の人や観光船の会社の元従業員というように取材の輪を広げていきました。

 小さな町でよそ者が騒いで全国に悪いイメージを広めている、というような見方もされました。「いつまで来るんだ。もう何もないべや」と言われることもありました。取材相手と関係を作ることが大切だと考えて、丁寧に話を聞いて回りました。現地に顔を出し続けると、「亡くなったことは残念だが本当は知床はいい場所なんだ」という地元の方の思いが分かってきました。

− きつい取材もあったでしょうね

佐:正直、きついことだらけでした。事故を機に、人生が変わってしまった人がたくさんいます。観光船の会社の人、最初に通報した人、最後の無線を聞いた人、受付した人、案内した人、たくさんの人の思いがあります。言葉にならない思いもたくさん聞きました。その思いを『記事化して良い』というGOサインをいただくまでが本当に大変でした。伝える必要がある、どうか記事にさせて欲しい、と説明しました。聞いて終わりではなく、話を聞きながら、どうしたらいいんでしょうね、と一緒に考えるような取材をしていました。

− 知床が好きになったと聞きました。

佐:事故をきっかけに知床を知るのは残念という思いがありましたが、取材をしながら知床の自然の美しさに胸が震える瞬間が何度もありました。夏の休暇でも両親を誘って知床を訪れ、小形観光船にも乗りました。私が、絶対に乗った方がいいと勧めたのです。船から見るからこその景色があります。両親もこんなに素晴らしいところでたくさんの人が亡くなったのか、と感じたようです。

− 異動で今は東京ですね。

佐:何度も知床に通い、この1年で延べ3カ月くらいいたでしょうか。いろいろな報道関係者が入れ替わり立ち替わり出入りしましたが、最後まで残ったのは私くらいかもしれません。私の北海道の最後の1年は結果的に知床一色になりました。異動で北海道を離れましたが、毎月23日が来ると思い出します。取材を通じて、事故を取り巻く様々な立場の方とのつながりができました。ここで終わらせずに、その方々の思いをこれからも伝え続けたいと思います。

佐野 楓 記者
仙台市出身。2019年朝日新聞社入社。水戸総局を経て、2021年4月に札幌報道センターへ。5月10日より北海道を離れ、東京のネットワーク報道本部へ異動。
※このページの内容、執筆者の肩書きなどは執筆当時のものです
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください

新聞記者に聞いてみた バックナンバー

よみもの「生まれ故郷の北海道で取材する醍醐味」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.37

生まれ故郷の北海道で取材する醍醐味

2026年4月20日
よみもの「自由な取材、記者の仕事が楽しくなった」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.36

自由な取材、記者の仕事が楽しくなった

2026年3月17日
よみもの「まだまだ伝え切れていないものがたくさんある。」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.35

まだまだ伝え切れていないものがたくさんある。

2026年2月16日
よみもの「「内と外を分けるもの」に関心」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.34

「内と外を分けるもの」に関心

2026年1月19日
よみもの「社会の弱者に寄り添う記事を」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.33

社会の弱者に寄り添う記事を

2025年12月16日
よみもの「温暖化止まらず、北海道はフグ日本一」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.32

温暖化止まらず、北海道はフグ日本一

2025年11月17日
よみもの「知床に通い続けて25年 変わった環境」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.31

知床に通い続けて25年 変わった環境

2025年10月21日
よみもの「20年以上ぶりに故郷へ 念願の1人勤務」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.30

20年以上ぶりに故郷へ 念願の1人勤務

2025年9月17日
よみもの「三たび北海道の地へ 原発、JR、核のごみ」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.29

三たび北海道の地へ 原発、JR、核のごみ

2025年8月18日
よみもの「金融危機、9.11、リーマン、そして北海道」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.28

金融危機、9.11、リーマン、そして北海道

2025年7月22日
よみもの「水俣の経験が変えた記者人生」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.27

水俣の経験が変えた記者人生

2025年6月16日
よみもの「デスクとしての1年、「現場」への思い」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.26

デスクとしての1年、「現場」への思い

2025年5月19日
よみもの「冷凍牛乳が拓く十勝酪農の新たな可能性」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.25

冷凍牛乳が拓く十勝酪農の新たな可能性

2025年4月22日
よみもの「スポーツ記者が語る野球の魅力と取材最前線 」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.24

スポーツ記者が語る野球の魅力と取材最前線

2025年3月17日
よみもの「本人ではいかんともしがたい問題がある」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.23

本人ではいかんともしがたい問題がある

2025年2月17日
よみもの「朝の焼き立てパンの香りがするような記事を」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.22

朝の焼き立てパンの香りがするような記事を

2025年1月20日
よみもの「世界遺産の知床に傷跡を残したくなかった。」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.21

世界遺産の知床に傷跡を残したくなかった。

2024年12月16日
よみもの「自分が書かなければ知られなかったことを伝えたい」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.20

自分が書かなければ知られなかったことを伝えたい

2024年11月18日
よみもの「クマの現場を知るために、狩猟免許取りました」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.19

クマの現場を知るために、狩猟免許取りました

2024年10月21日
よみもの「駒大苫小牧初優勝、大谷の日ハム初年も取材」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.18

駒大苫小牧初優勝、大谷の日ハム初年も取材

2024年9月17日
よみもの「親になり、いろいろなことが自分ごとに」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.17

親になり、いろいろなことが自分ごとに

2024年8月20日
よみもの「自分で体験する、を大切に」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.16

自分で体験する、を大切に

2024年7月17日
よみもの「ウクライナ、北海道、米国」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.15

ウクライナ、北海道、米国

2024年6月17日
よみもの「人の人生を追体験できる面白さ」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.14

人の人生を追体験できる面白さ

2024年5月20日
よみもの「スーパーアスリートたちと接して」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.13

スーパーアスリートたちと接して

2024年4月16日
よみもの「やっぱり現場に戻りたかった」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.12

やっぱり現場に戻りたかった

2024年3月19日
よみもの「エネルギー、半導体、JR、流通…… 北海道経済を幅広く取材」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.11

エネルギー、半導体、JR、流通…… 北海道経済を幅広く取材

2024年2月19日
よみもの「事件事故、起こったことを伝えるだけではなく」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.10

事件事故、起こったことを伝えるだけではなく

2024年1月15日
よみもの「海の生き物から地球の環境が見えてくる」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.9

海の生き物から地球の環境が見えてくる

2023年12月18日
よみもの「写真は時間を遡れない。先読みして現場へ。」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.8

写真は時間を遡れない。先読みして現場へ。

2023年11月20日
よみもの「「選挙ロジ担」〜市町村数の多い北海道は一苦労」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.7

「選挙ロジ担」〜市町村数の多い北海道は一苦労

2023年10月16日
よみもの「「人の役に立つかも」〜自身の体験を記事に」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.6

「人の役に立つかも」〜自身の体験を記事に

2023年9月19日
よみもの「編集委員ってどんな記者なんですか?」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.5

編集委員ってどんな記者なんですか?

2023年8月21日
よみもの「地方での1人勤務ってどんなですか?」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.4

地方での1人勤務ってどんなですか?

2023年7月18日
よみもの「知床観光船事故を取材して1年」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.3

知床観光船事故を取材して1年

2023年6月19日
よみもの「連載「地方自治クライシス」のできるまで」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.2

連載「地方自治クライシス」のできるまで

2023年5月16日
よみもの「紋別を目指した旅人、到着したのは?」の見出し画像です
新聞記者に聞いてみた vol.1

紋別を目指した旅人、到着したのは?(2023年3月6日 朝日新聞北海道版道内面 19ページ)

2023年4月18日
先頭へ戻る