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>HOME  >よみもの一覧  >新聞記者に聞いてみた  >「世界遺産の知床に傷跡を残したくなかった。」(2024/12/16)
新聞記者に聞いてみた vol.21

世界遺産の知床に傷跡を残したくなかった。

公開:2024年12月16日
新聞記者に聞いてみた

今回の記者さんは旭川支局長の奈良山雅俊さんです。1961年生まれ、1984年入社の大ベテランです。自然環境、野生動物、平和がライフワーク。知床の問題について詳しく聞きました。

 北海道の出身なのですね。そもそもなぜ新聞記者を志したのでしょう。

奈良山:当時は地方の国立大学に地方採用枠があり、弘前大学から教授推薦をもらって受けたら受かってしまいました。本当は広告代理店に入って営業をやりたかったのですが、教授の勧めもあり入社を決めたので、入りたくて入ったわけではないんです。新人研修では、「使命感を持って仕事を」と言われてちょっと戸惑ったのを覚えています。

 自然に関することをテーマにしているそうですね。

奈良山:2003年に北海道勤務を希望して札幌に来てデスクになりました。ちょうどそのとき知床が世界遺産候補になり連載も担当したのですが、デスクなので現場に行けません。知床にも行ったことがなかったので、現場感がありません。翌年、釧路に転勤してから現場に出て、その魅力にはまっていきました。

 北海道ご出身ですが、やはり新鮮でしたか。

奈良山:私は日本海側の小平町出身ですから、初めて道東を実感して、「北海道というのはここなんだ」と思いました。それくらい魅せられました。

 当時はどんな取材をしていたのでしょう。

奈良山:問題になりかけていたエゾシカについて取材しました。当時の推定生息数は30〜40万頭。まだ1日の捕獲制限があった時代です。このままだと爆発的に増えると予想しました。当時、シカの問題は道東が中心でしたが、その後、日本海側、道南にまで拡大し、今は70万頭以上と言われています。メスの捕獲制限撤廃が遅すぎた。保護しすぎた結果、管理がうまくいかず取り返しの付かないことになってしまいました。

 旭川にいながら、知床の携帯電話の基地局問題をずっと取材していたと聞きました。

奈良山:道東に勤務していたときの知り合いから、基地局の電源確保のため、太陽光パネルを知床半島の突端近くに建設する計画があると聞きました。

 何が問題だったのでしょう?

奈良山:問題は複雑です。もともと地元の漁師から「携帯電話を使いたい」という要望がありました。そこに観光船の事故が起き、電波の空白地帯が問題になる。船舶の安全は国交省の管轄ですが、事故を受け、早々に携帯電話を旅客船の法定設備から除外しました。すると「知床岬に基地局」となるのです。「政治主導」と言われても仕方ありません。携帯電話を使いたいのは主にコンブやウニ漁の小さな船の漁師です。ただ、岬周辺の入り組んだ複雑な地形では基地局ができても携帯電話がどこまで通じるかわかりません。それでも「地元の要望」を理由に、総務省は計画を推し進めます。工事概要が明らかにされないまま、今春の着工が決まっていました。

 どんな工事が予定されていたのですか?

奈良山:岬の台地の林の際に基地局の電源設備として太陽光パネル264枚を設置します。敷地はサッカーコートの広さです。ここからアンテナを取り付ける灯台までの約2キロを掘削する予定でした。着工直前の今年4月の推進会議でも図面は示されませんでした。事前に工事概要を入手したのですが、正直驚きました。これは止めないととんでもない傷跡を残す。推進会議後の記者会見で、計画についての質問をぶつけました。そこで初めて工事の規模や工法など全容が明らかになったのです。

 この計画が知らされないまま工事が始まろうとしていたのでしょうか。

奈良山:そうです。推進会議のメンバーもどこまで知っていたのかわかりません。

 工事が凍結された経緯は?

奈良山:世界自然遺産の登録地には科学委員会ができます。科学的な知見や調査・研究を通じて環境保全や利活用を環境省へ助言する機関です。ですので、環境省は助言を求めず、簡単な報告で済ませました。あとで計画の規模やオジロワシの調査をしていなかったこともわかり、科学委員会は激怒。環境省は再調査を求められ、工事は中断です。

 環境省は工事の許可を出したのですよね?

奈良山:そうです。ただ総務省主導の事業だったので、どこまで環境省が意見を言えたのかはわかりません。政治家への忖度があったかも知れません。現場のレンジャーたちはじくじたる思いだったでしょう。

 流れが変わったのは?

奈良山:斜里町の町長が国に計画の見直しを要望し、町議会も再考を求める意見書を採択したことが決定的でした。事業の肝だった「地元の要望」が崩れたのですから。

 もうすぐ定年と聞きました。

奈良山:はい、あと1年ちょっとです。高校野球や平和企画などで夏はなかなか休めず、いい季節を逃しました。定年後は釣りや山登りを存分に楽しみますよ。

 まだ1年あります。もっといろいろなことを書いてください。ありがとうございました。

奈良山雅俊 記者
1961年小平町生まれ。1984年朝日新聞社入社。浜松、柏崎、甲府、東京本社、盛岡、北九州、札幌、釧路、大分、北九州、網走、釧路、稚内と勤務し、現在旭川支局長。
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