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前回は持病を持ちながらマラソンを続ける話が中心でしたが、今回は自然の話。それもヒグマを中心に、持ち場である知床のことを聞きました。
− 前回、新聞記者になった理由のひとつにカラフトマスに興味があったからと聞きました。25年間、毎年通われているという知床を中心に聞きたいです。
神村:一度訪れた知床で遡上するカラフトマスを見て感動したのがその自然に魅せられたきっかけでした。川が真っ黒になるほどカラフトマスが押し寄せるんです。日本にもこんなに海と陸の生態系がつながっている場所が残っていたのか、と驚きました。
− 最近はどういう状況なんでしょう。
神村:激減したと言っていいでしょう。かつてはあれほどいたカラフトマスが、今では「どこにいるんだ?」というほど少なくなりました。サケは環境が変わっても自分の生まれた川に執着して帰ってこようとするのですが、カラフトマスは戻る場所の環境が悪くなると、そこを避けてしまいます。サケが水温が高い場所でも帰ろうとして死んでしまうのとは違い、カラフトマスは生き延びるために、暑い場所を避けて違う場所に上がるんです。
− 海水温が上がって敬遠されているのでしょうか?
神村:そう考えるのが自然だと思います。帰ってくる数が少なければ産卵も少ない。それが続けばどんどんその数は減っていきますね。
− ヒグマにもよく出合っていると聞いたのですが。
神村:たぶん朝日新聞社の中でいちばんクマに遭遇している記者だと思います。カラフトマスが遡上するシーズンはヒグマも獲物を求めて川にやって来ますから、当然出合う機会は多くなりますよね。
− ヒグマをとりまく環境も変わっていますか?
神村:変わっていると思います。あんなにヒグマが多いといわれる知床で、最近あった羅臼岳での死亡事故まで、約40年間、ヒグマによる一般人の被害は一件もなかったんです。最近になって急に変わったというよりはジリジリと変わってきたという感じでしょうか。
− それはどういうことですか。
神村:ヒグマがだんだん人間を怖がらなくなってきたんです。昔は人の気配を感じると逃げていたのですが…。最近はヒグマの興味を引くものがあると、そこに人間がいようがいまいが行きたければ行く、というような感じです。
− なぜそうなったのでしょう。
神村:一つは「春グマ駆除」がなくなったことだと思います。かつては春にヒグマの駆除がありました。残った個体はその経験から、人間を命がけで避けるようになりました。しかし90年に春グマ駆除が廃止され、そうした学習経験のないクマが増えていった。さらに近年は観光客や写真愛好家が至近距離からクマを撮影し、人間は危害を加えない生き物だということがわかり、「人は無害なもの」とクマに思わせてしまっている。
− ヒグマがいるような場所に入るときはどんな装備をされているのでしょう。
神村:クマ除けの鈴、撃退スプレー、マキリ(小刀)は必ず持っていきます。
− ご自身も何度か至近距離でクマに出合っていると聞きました。
神村:知床岬近くで、作業の合間に茂みに入っているとき、風下からヒグマが私の匂いを嗅ぎつけて真っすぐ近づいてきたんです。そのときはたまたま撃退スプレーを持っていなくて丸腰でしたから「これはもうだめか」と思いましたね。とっさに両手を広げて大声を上げると、クマが驚いて逆方向へ逃げてくれました。命からがら壊れかけの番屋に駆け込みましたが、あれが一番肝を冷やした経験です。その他、これ以上近づいてきたらスプレーを噴射しないと、と思うときもありましたが、幸いその前にヒグマが向きを変えてくれたりで事無きを得ています。
− 羅臼岳のヒグマによる死亡事故は衝撃的でした。自然の中に行く人が注意すべきことはありますか。
神村:私も羅臼岳には年に2〜3回のペースで登ってきました。ヒグマが頻繁に出没するところが多くあります。まず下りだからといって走ってはいけません。見通しのきかないカーブの先でヒグマが食事をしていて、走って出くわしたら終わりです。だから頻繁に声かけしながら、手を打ちながら歩いたりします。さらに最近の人慣れしたヒグマは登山道に人間がいてもどかないときもあります。くれぐれも注意していただきたいと思います。
− ありがとうございました。神村さんも注意して取材を続けてください。
1967年、神戸市生まれ。読売新聞を経て2000年に朝日新聞に入社。札幌、福岡、根室、札幌、宮崎総局次長、東京文化くらし報道部次長を務め、現在は網走支局長。