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新聞記者に聞いてみた vol.35

まだまだ伝え切れていないものがたくさんある。

公開:2026年2月16日
新聞記者に聞いてみた

 今回お話を伺ったのは、函館支局長の野田記者です。野田さんは函館に赴任してすぐの約2年前に本欄に登場されています。2年間でどんなことがあったでしょうか。

(2025年7月15日付 東京本社版)
(2025年7月15日付 東京本社版)

― 北海道生活もだいぶ長くなりましたね。

野田:自分でも驚いています。2020年4月に札幌の報道センターに来て、そこから函館に移り、6回目の冬を迎えています。

― 前回は八雲町の木彫り熊発祥100周年の取材計画の話をされていましたが、紙面に掲載されました。

野田:これまで取材してきたことを1面で発表することができました。尾張徳川家の徳川義親によって始まったのですが、当時彼が言っていたのは、農家の副業という経済的な側面だけでなく、木彫りによる「高尚ナル趣味ヲ涵養スル」こともありました。戦争で一度は途絶えかけながらも、町が開いた教室で学び続け、今も受け継ごうとする人たちがいる。文化として残ったことを伝えたいと思いました。

 若い頃は事件中心の取材が多かったのですが、年を重ね、文化や芸術という自分の関心や価値観に近いテーマを取材して掘り下げられることに、ありがたさを感じています。

― 全国でクマの被害が相次ぎましたが、クマの取材も多くされましたね。

野田:北海道に来てから、ヒグマは、肌身に感じる現実の問題になりました。本州で記者をしていた頃には、想像もしませんでした。穴狩り(冬眠穴での狩猟)をルポしたことも印象深いです。結果的には空振りでしたが、ベテランハンターが若手に技術と心構えを伝えている現場を全国に伝えられたことに意味があったと思います。

― 道南の福島町ではクマの人的被害もありました。

野田:大変痛ましい事故でした。未明のまちなかで朝刊を配達していた男性が襲われて亡くなったのです。町全体が1週間も緊張状態になりました。襲ったクマの駆除にあたったハンターの方から詳しく話を聞くことができました。ヒグマとの距離2.8メートルでの対峙。暗闇の中、警察の指示を受けながら、安全を確保しつつ撃つ。その緊迫感を、できる限り言葉で再現しました。

― ハンターの男性は70歳だったとか。

野田:50歳から狩猟を始め、駆除したクマは20年で120頭以上。地域を守るために続けてきた方です。住んでいる地域からハンターがいなくなるため、自分がやるしかないと引き受けたのです。今回の被害の4年前、別の場所で高齢女性がクマに襲われ亡くなりました。ハンターの男性は、女性が見つかった現場に毎日手を合わせてから山に入っていたそうです。楽しみでやっているわけではない。命と責任を背負っている。とても誠実な方で、そんな人の地道な活動があってこそ、住民の安全は守られているのです。クマの危険を取り除いてくれた人ですから、お名前も出したいのですが、駆除に対してクマの脅威を知らない他地域の人からの苦情もあり、それも叶いません。なぜなのか、と感じます。

― 戦後80年の節目に書かれた函館山の記事も印象的でした。

野田:函館山は明治から敗戦まで要塞だったことはあまり知られていません。スケッチしただけで検挙される時代もあったのです。しかし、函館空襲の際、要塞は市民を守れなかった。一方で、山に逃げ込んだ人たちは命を救われた。軍事施設としての山と、市民を包む山。その両面を描き、函館山の歴史を伝えたいと思いました。

―函館の漁業、イカのことも気になります。

野田:函館が「イカのまち」であることを強く感じています。近年、地元ではマイカと言われるスルメイカの漁獲量は資源減少で激減し、高級品になってしまいました。実は私は18歳の時に青函連絡船で函館を訪れたことがあり、その時に食べたコリコリしたスルメイカのおいしさが忘れられません。だから、日々の食卓にのぼることが珍しくなってしまったのは寂しいです。昨年の初競りは出漁したもののイカがとれず中止に。ところが、夏以降に漁獲が増え、資源管理のために設定されている漁獲可能量(TAC)を超えて、11月から禁漁になってしまいました。イカがいるのにとれない。北海道が管理する資源調査枠として漁が再開されましたが、地元の漁業者には大きな痛手でした。来季のスルメイカの漁獲量がどうなっていくかなど、今後もウォッチしていきたいと思います。

―今後の記者生活のことは何か考えておられますか?

野田:新聞記者は転勤が多く、赴任するたびに「第二のふるさと」が増えていくものです。記者になった30年前、この北の大地で働ける日が来るとは思いもしませんでした。記者として再出発することになった道南には、とりわけ親しみを感じています。まだまだ伝え切れていないことがたくさんあります。この風光の素晴らしい土地での暮らしを楽しみながら、取材結果を皆様にお伝えしていきます。

野田 一郎 記者
東京都出身。1996年、朝日新聞社入社。岐阜支局、尾鷲通信局、名古屋本社社会部、東京本社社会部、東京本社販売局(危機管理担当)を経て、2020年4月から北海道報道センターデスク。23年9月から函館支局長。
※このページの内容、執筆者の肩書きなどは執筆当時のものです
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