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新聞記者に聞いてみた vol.38

研究の世界から現場へ — 広がるまなざし

公開:2026年5月18日
新聞記者に聞いてみた
2026年3月15日付 西部本社紙面(部分)。紙面版では「わたしの折々のことば」という連載だった。
2026年3月15日付 西部本社紙面(部分)。紙面版では「わたしの折々のことば」という連載だった。

 今回の記者さんは4月に西部報道センターから北海道報道センターに異動してきたばかりの中村有紀子記者です。北大農学部卒。学生時代の思い出が残る札幌に戻り、北大の入学式で多様な研究テーマを追う新入生らの声を拾うなど、丁寧な取材でぐいぐい読ませる記事を書いています。

—大学から大学院までは理系。動物についての研究をされていたそうですね。

中村:北海道大学ではグッピーの研究をしていました。グッピーは体側に赤い模様があるのですが、オスがメスに求愛するときに、左右の模様のうち大きい方を見せるのではないかと仮説を立てて、研究しました。名古屋大学ではショウジョウバエの脳を対象にしました。ハエは求愛の時にリズムのある羽音を発するのですが、その音は種ごとに違う。そうした行動は何が違うのか、なぜ違うのか。脳の遺伝子を解析することで、その謎に迫ろうとしました。

—どっぷり理系ですね。そこからなぜ、新聞記者になろうと思ったのですか?

中村:このまま研究だけの人生でいいのかな、と迷い、ふと「就職活動をしてみるか」と思い立ちました。研究に紐付けるなら製薬会社などが候補になるのですが、商品開発系には興味が湧かなかった。エントリーシートがうまく書けなかったんです。もともと新聞や本を読むのは好きだった。新聞には理系や科学系の記事もある。会社説明会で、政治や経済を勉強していなくてもOKと聞いて、入社試験を受けました。

—西部報道センターでは何を担当しましたか?

中村:1年目は警察、2年目は福岡県政です。昨年7月の参院、今年2月の衆院など選挙も担当しました。

—クマやアリの生態についてなど、動物についての記事が異彩を放っています。特にこの4月に掲載となった「生き物と食べ物のあいだ(デジタル版)」という3回連載は読み応えがありました。写真家の繁延あづささんを主人公に、イノシシ猟の同行撮影や養鶏を通して、生き物を食べるという行為の捉え方が変化していく様子が緻密に描かれています。どういうきっかけで取材したのですか?

中村:長い前振りがあります。2024年11月に詩人の谷川俊太郎さんが亡くなり、上司から「福岡でゆかりのある人を記事にして」と指示を受けました。そこで、谷川さんが福岡市の書店に送った直筆の詩を取材しました。その書店の店主から「もっと付き合いが深いところがあるよ」と紹介されたのが、市内の高齢者介護施設「宅老所よりあい」です。築100年の古民家に、十数人の認知症の高齢者が暮らしています。

「よりあい」は、谷川さんの詩「母を売りに」に衝撃を受けた開設者が、谷川さんに朗読会を依頼したことをきっかけに交流が始まり、約20年間関係が続いてきたそうです。記事を書いた後、現在の施設長が出版した本のブックトークにも足を運びました。そこで、連載で取り上げた繁延さんと出会ったのです。

—どんなところに魅力を感じて取材したのですか?

中村:写真家なのに、採卵養鶏場を営んでいるというのを不思議に思って事情を聞いていくと、息子さんが「ゲーム機を買うのをやめるから、代わりにニワトリを飼わせて」と言ったのが始まりだったとか。面白いと思いました。繁延さんの著書『山と獣と肉と皮』を読んで、私自身の感覚が変わったことも大きかった。食用の肉を見て、初めて「これも生き物だったんだ」と思ったんです。それまでは「そんなことを考えるのは残酷だ」とネガティブな感じを抱いていた。それがちっとも悪くない。むしろ「食べるってダイナミックなことだ」と、新しい感じに受け止められました。

—長い時間をかけて取材されたのですね。

中村:断続的に3カ月ぐらい取材しました。長崎の繁延さんの養鶏場にも行き、卵をいただいてお話を聞きました。生き物を食べるという壮大で根源的なテーマに、家の台所という生活と地続きの場所からアプローチできるということがわかって、手応えがありました。

—北海道報道センターに着任してすぐ、母校の北大の入学式を取材されました。

中村:タイムスリップしたみたいでしたね。北大総合博物館の独特の匂いに学生時代が蘇りました。そこで「この匂い、なんなんでしょうか?」と聞いたら、名誉教授は「カビでしょうね」と(笑)。

—学生時代は「ヒグマ研究会」に所属していたとか。

中村:4年前には、クマの出没がこれほどの社会問題になるとは思っていませんでした。いろんな要因が絡まって差し迫った状況になっています。誰も正解が分からないけど、どうにかしなければいけない。野生動物と人がどう共生できるのか。研究者、行政、生活者など様々な立場の人に取材をし、これからの方向性を考える時期に来ていると思います。

—改めて新聞記者の醍醐味とは?

中村:「偶然の出会い」でしょうか。介護や食肉など今まで自分の視界に入っていなかったことに出会い、共感したり、新たな気づきを得たりできるのが醍醐味だと思っています。研究とは違い、「これ」と定めたところではないものに面白さがある。その楽しさをもっと追求できたらと考えています。

中村有紀子 記者
1998年東京都出身。北海道大学農学部、名古屋大学大学院理学研究科修士課程修了。2024年朝日新聞社入社。西部本社(福岡)西部報道センターで警察や福岡県政を担当し、教育分野や動物と人間の関わりなどを幅広く取材。26年4月から北海道報道センター。
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