朝日IDをお持ちの方はこちらから
AFCのログインIDをお持ちの方(2024年7月31日までにAFCに入会された方)はこちらから
新規入会はこちらから


夏の甲子園で、宮城県の仙台育英高校が優勝してから約2カ月。北海道では、春の甲子園出場を目指す20校が戦う、秋季全道大会が終わりました。
私は今春、札幌に赴任してから、北海道の高校野球取材を担当しています。中でも最も印象に残っているのが、札幌北高校への取材です。
決して強豪とは言えない同校が、夏の大会で札幌地区大会を勝ち抜き、ベスト16以上が集う南北海道大会に進んできました。監督に話を聞いてみると、「こちらから答えを言うのではなく、選手たちに『どう思う?』と意見を促し、待つようにしている」と話していました。すると、選手たちは能動的になり、練習メニューを自分たちから監督に提案するようになったそうです。
この時思い出した本が、ギッタ・セレニー著の「人間の暗闇 ナチ絶滅収容所長との対話」(岩波書店)です。
第2次世界大戦のさなか、ユダヤ人虐殺のためにナチ・ドイツが作った収容所の長を務めた男性などに、著者のセレニーが何度もインタビューした内容をまとめたものなのですが、セレニーが、収容所長との最後の会話で、「自分の内側と向き合うように」と促すシーンがあります。
それまでのインタビューでもセレニーは同様に促していましたが、収容所長は、「自分は命令された以外のことはしていない。起こったことは全て戦争の悲劇だ」などと返すばかりでした。
ただ、セレニーは最後の会話で、空白の時間を気にせず、じっと相手の言葉を待ち続けました。すると、初めて収容所長は「自分の罪」という言葉を口にし、自身と向き合う態度をとったというのです。
待つ、という行為は根気がいる作業で、私も取材相手の言葉を待ちきれない時があります。ですが、改めてその重要性を、札幌北高校の取材を通して感じた次第でした。
執筆者
朝日新聞 北海道支社 記者 石垣明真