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「周辺で目撃情報がありました」。大雪山国立公園の黒岳に登ろうと当日朝、立ち寄ったビジターセンターでハッとした。ヒグマ対策をすっかり忘れていたのだ。
福岡から1カ月前に札幌へ転勤してきたばかり。それまで3年過ごした九州は、どの山にもクマはいない。道内でクマのニュースを頻繁に読んではいたが、自覚が足りなかった。「鈴を貸し出していますよ」と聞いて一つお借りし、登山口へと向かった。
ユニークな「クマよけアプリ」があると耳にしたのは、そのころだった。開発者に連絡を取ってみると、熱意がひしひしと伝わってくる。
アプリは、更別村の熟練ハンター・渡辺勇さんが飼っていた猟犬の鳴き声や銃声を録音し、そのデータを無料で配るものだ。「この音声はクマよけに効く。広く多くの人に使えるようにしてほしい」と晩年に託された次男と孫が、「遺言」をかなえるために自費でつくった。
効果はあるのだろうか? 渡辺さんと長く駆除活動をしてきた男性(82)は「クマは犬と対峙せず、鳴き声を聞くと逃げていく」と太鼓判を押す。うかがった話を「親子3代でつくるアプリ」という記事にまとめた。
先住民のアイヌは、ヒグマを「キムンカムイ」(山の神)と呼び、人間に肉や皮を恵む存在としてあがめていた。だが、里で人間を襲ったクマは、一線を越えてしまった「ウェンカムイ」(悪い神)とみなし、村を挙げて仕留める。
専門家によると、クマは本来、人里に来てもすぐ山へ戻るが、そこにエサがあると学習してしまうと頻繁に訪れるようになる。防ぐには、クマと人間の領域をはっきり区別し、境界に緩衝地帯をつくるのが良いという。猟犬の鳴き声も、人間が住む場所だと気づかせる手段になるかもしれない。
今夏訪れた大雪山は古来、「カムイミンタラ」(神々の遊ぶ庭)と呼ばれていた。登山は、クマが暮らす場所に分け入る行為だという意識を持ちたい。今回の取材で改めて感じた。
「クマよけアプリ」の記事はこちらから
「【そもそも解説】知床観光船事故2年半 なぜ今、運航会社長逮捕?」朝日新聞デジタル
朝日新聞北海道報道センター. 丸石 伸一