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ふとした街の風景を見落としていないか。運転に集中しなければいけない車や、トンネルを走り続ける地下鉄を使っていると、時折、そんなふうに思う。働き始めて30年。今年春に2度目となる札幌勤務になった。先の見えにくいマスク生活もあって、20年前とは違い、ブラブラと気ままに出歩く回数も減ってしまったが、この街の様子がどう変わったのか、気になって仕方がない。
転勤するたびに気に入った理髪店に巡り合うまでに時間がかかるが、歳をとったお陰で、雨粒が頭のてっぺんに落ちてくるとすぐ気づくようになり、髪が伸びるのも遅くなった。散髪するのは1ケ月半に1度ぐらい。ようやく10月末になって、しっくりする床屋さんが見つかった。ゆっくりと走る市電の車窓から見かけて入ってみたら、ご近所の人たちが、居心地よさそうに、のんびりと世間話しながら髪を切ってもらっていた。
もう一つ。最近、自転車で走っていて見つけたのは、大通西8丁目に置かれた「ブラック・スライド・マントラ」。日系アメリカ人で、世界的な彫刻家イサム・ノグチの晩年の作品で、高さ3・6メートル、直径4メートル。黒光りする花崗岩で作られ、重さは80トンもあって、滑り台にもなっている。作品は1988年に完成し、今の場所に設置するために、札幌市は道路をつぶして公園にした。子どもたちの遊び場と、市民の憩いの空間を広げたいとの発想だったらしい。通りかかると、いつも子どもが歓声を上げて、繰り返し、飽きずに滑り降りている。ノグチは「この彫刻作品は、子どもたちのお尻で磨かれて完成する」と言ったそうだ。
床屋さんも、ブラック・スライド・マントラも、前回の札幌勤務の時にあったはずなのだが、よく知らなかった。まだまだ、気づかない良さが、札幌の街にはありそうな気がしている。2年前に感染してしまった新型コロナの嗅覚障害がいまだに完治していないが、5回目のワクチン接種も済ませた。しばれる冬に向かって換気が難しい季節になるが、感染対策にも気をつけながら、見落としている北国の風景を楽しみたいと思う。
執筆者
朝日新聞 北海道支社 記者
