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むかし、「芸能人は歯が命」という歯磨き粉のコマーシャルがあった。わたしの仕事でいえば「フォトグラファーは場所が命」だろうか。原稿はあとから話を聞いても書けるけれど、写真は現場にいないと撮れない。
昨年5月、東京本社から1本の電話がきた。「いまから道東のオホーツク海側に出られるか?」。北海道でオーロラが見られるかも、と撮影を頼まれた。
そのとき、出張で道央の町にいた。現場まで車で約6時間超。行って戻って二つの取材は難しい、となった。結局、東京から駆けつけた同僚の写真が紙面を飾った。
ここからはウラのお話。じつは撮影を諦めていなかった。何か起こるかもと言われ、足を止めては写真記者の名折れ。地図と天気図を頼りに望みを託せる場所を探した。行ったのは宿から車で1時間の丘陵地にある小道だ。日没を見とどけ、気合を入れた。
すぐに心が折れそうになった。暗闇の丘にひとり。超怖い。そこかしこで「ガガガ、ガガガ」と虫の大合唱。おびえる人間をあざ笑う悪魔のような声だ。草が揺れてドキッ。姿を確かめようとカメラでパシャ。クマではなくキツネにホッ。それを繰り返した。
どれほど経ったか。試し撮りの1枚に、心が一気に高まった。「空が赤っぽい?」
かつて見たオーロラ写真は鮮やかな黄緑色で、カーテンのようなかたちだった。
それとは違った。肉眼では、透明な何かが空にうごめく感じ。ただ、カメラの高感度撮影の力を借りれば夜空に色がある(写真1)。喜び勇んで、上司に報告した。

上司は言った。「それ、オーロラと言い切れるか?」。言葉に詰まった。
夜空は意外と明るい。街灯、家や工場、農業用ハウスの照明が薄雲などに反射して空を明るくしたり、雲に色をつけたりする。
オーロラの方角に市街地のない所を選んでいた。でも知らぬ所から光が出ていたら……。締め切りまでに調べ切るのは無理だ。「……ボツにしてください」
ちなみに弊社の写真は、オーロラ方向は海、建造物がない、赤い光の範囲が広大で人工光では起こりえない、と掲載された。
あとから、オーロラについて調べてみた。全体が黄緑というわけではなく、高度で色が変わるようだ。日本では高い高度に現れる赤い部分が見えたらしい。
そこで今年の冬休みに確かめた。場所は北欧アイスランド。高度で色が違っていた(写真2)。泣きそうなほどお金のかかる現場だったが、ウラはとれた。
朝日新聞北海道報道センター写真担当課長 /現・映像報道部(東京)
角野貴之
