このWebサイトの全ての機能を利用するためにはJavaScriptを有効にする必要があります。
>HOME  >よみもの一覧  >北の記者席から  >「“やきとり”と“桜餅”から考える」(2025/10/21)
北の記者席から vol.44
北の記者席から

VOL.44“やきとり”と“桜餅”から考える

今月の執筆者|朝日新聞北海道報道センター 記者 朽木誠一郎
公開:2025年10月21日

「はい、豚のやきとり」

 妻は豚肉の串焼きを食卓に出し、そう言った。

 4月、北海道に異動になった。妻は道産子、私は生まれも育ちも関東地方。食卓での会話は時折、かみ合わないことがある。

 “やきとり”なのに豚。鳥肉のときは「鳥のやきとり」と言うらしい。ふざけているのかと思ったら、北海道には豚肉の串焼きを“やきとり”と呼ぶ文化があるという。

 言われてみればどうしてだろう、と首をかしげる妻の姿を見て、豚肉の「室蘭やきとり」や「やきとり弁当」(函館)を取材した。

 これらの地域では、鶏より豚が手に入りやすかったため、“やきとり”が豚肉を指すのだそうだ。

 こちらが気づかされることもあった。私にとって桜餅とは、あんこをピンク色の小麦粉の皮で包んだ関東風。しかし、北海道のスタンダードは、もち米を使うつぶつぶの関西風だ。

 「これ餅じゃないじゃん、クレープじゃん」

 たしかに、とひざを打った。関東風の桜餅には、もち米が使われていないことに、30年以上、考えが及んでいなかった。

ある日の我が家の食卓に並んだ「豚のやきとり」(上)と焼き鳥
ある日の我が家の食卓に並んだ「豚のやきとり」(上)と焼き鳥
甘納豆を入れる北海道の赤飯(右)と全国で食される小豆の赤飯
甘納豆を入れる北海道の赤飯(右)と全国で食される小豆の赤飯

 早速、専門家に話を聞いた。桜餅は、江戸~明治期に関西と北海道をつないだ北前船により、もたらされた。その結果、道内で桜餅と言えば、多くの場合は関西風を指す。

 こうして、私の記事は、家庭内に会話を生み出し、夫婦のすれ違いを解消してくれている。

 常識は生まれ育った文化により変わる。異なる文化と交流しなければ、疑いすら持つ機会がない。

 同時に、異なる文化は、私にとっての「豚のやきとり」、妻にとっての「クレープみたいな桜餅」のように、強い違和感をもたらす場合がある。

 しかし、理由を知れば、納得できること、受け入れられることもあるだろう。豚串も鳥串も、関東風も関西風も、どちらもおいしいよね、と。

 どこかに文化の違いを巡る争いがあるなら、それがなぜ起きているのか、経緯を取材し、記事にすることで、分断を乗り越えることができるかもしれない。

 思わぬ形で、新聞記者という仕事の意義を感じることになった。

 東京で生まれた小さい子ども2人は、これからしばらく、北海道で育っていく。

 開拓地としてさまざまな文化が入り交じるこの土地で、人と人との違いに柔軟に、寛大に育ってほしい。私はそのきっかけを、記事として残しておきたい。

※このページの内容、執筆者の肩書きなどは執筆当時のものです
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください
先頭へ戻る