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「ヘリコプターでの撮影は控えてください」――。
札幌で相次ぐヒグマの市街地への出没をめぐり、そんな要請が市から報道各社に寄せられた。
朝日新聞社は、この件の直接の当事者ではない。
ただ、現場で取材に関わる記者のひとりとして、こうした申し訳ない事態があったことを読者の皆様にお知らせすべきと考え、自戒を込めてここに記す。
9月26日夜、札幌市西区の公園で、散歩中の市民がヒグマに襲われて負傷した。
「人の生活圏での人身被害」
重大な事案だと捉えた私は、自らの安全確保を考慮して夜明けを待ち、装備を整えて車で現場に向かった。すでに、多くの報道陣が公園周辺に集まっていた。
市民を襲ったヒグマは行方不明。市や猟友会など関係機関は、朝から現地調査にあたっていた。
公園は、山林に接している。ハンターは徒歩で奥へと進み、ヒグマの気配を探りながら五感を研ぎ澄ませる。


そのさなか、報道ヘリが上空に近づいてきた。
関係機関が対峙しているのは猛獣だ。人間の言葉や常識は通じず、どこから襲われるかもわからない。
上空の騒音は、わずかな気配をかき消し、関係者ひいては地域住民の安全を脅していた。報道機関への「ヘリ自制」要請は、これが初めてではない。
調査が一区切りした後、市の担当者は、集まった報道陣に「市民への注意喚起にご協力いただき、感謝します」などと言葉を慎重に選びながら、こう続けた。
「どうか、もうちょっと自覚をしていただいて、ご配慮をお願いします」
申し訳なさで、メモを取る手が震えた。市民の安心・安全のため、リスクのある現場で最前線に立つ方々を危険にさらし、活動を妨げ、こんな初歩的な注意喚起までさせてしまった。心の中で謝罪と感謝を繰り返した。
報道の取材姿勢が問われる状況は、災害や事件事故など、あらゆる現場である。
私は中堅といわれる年次になっているが、過去の経験や教訓から可能な限りの想像力を働かせても、それでも無知や未熟さゆえに誰かを傷つけ、迷惑をかけてしまうことはあると思う。
ヒグマに関する取材は、命や暮らしに関わる重要なテーマだと思っている。だからこそ、様々な可能性を念頭に置き、学び直し、改善を重ねていきたい。そう強く心に刻んだ。