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北の記者席から vol.54
北の記者席から

VOL.54事実の切実さを 感じるために現場へ

今月の執筆者|朝日新聞北海道報道センター 旭川支局長 野田一郎
公開:2026年8月17日
現場となった神居大橋
現場となった神居大橋=2026年5月23日、北海道旭川市、 野田一郎撮影

 現場を見ること。その大事さを改めて感じる取材があった。

 旭川市の神居古潭で2024年4月未明、17歳の女子高校生が橋から落ち、水死した事件の裁判だ。殺人などの罪に問われたのは、主犯とされた内田梨瑚被告(23)と当時19歳の女。女は昨年3月、懲役23年(求刑25年)の判決を受け、すでに確定していた。

 事件は犯行の残忍さから全国的に注目された。内田被告が写った画像を無断でSNSに投稿した高校生を車に監禁し、神居古潭へ連行。身につけているものを全て脱ぐよう命じ、謝罪する様子を動画で撮影。さらに暴行を加え、神居大橋の欄干に座らせ、殺意をもって「落ちろ」「死ねや」などと言って高校生を川に落下させ、死亡させたというものだった。

 発生当時、私は函館支局で勤務していた。30代の頃に殺人事件などを担当する警視庁捜査1課を取材していたこともあり、気に掛かっていた。今年4月、旭川支局に赴任して臨んだのが、内田被告の裁判だった。

 裁判の前に共犯の女の裁判資料を読み込んだ。気になった点があった。女は、内田被告と共に高校生を欄干に座らせた後、欄干の外側に立たせ、最後に内田被告が高校生の背中を押して川に落下させたと供述していた。

神居大橋の欄干と外側
神居大橋の欄干と外側。亡くなった女子高校生は幅約10センチの 床板に立たされた。右側は通路=2026年5月23日、 北海道旭川市、野田一郎撮影

 欄干の外側に立たせる? どうやって? イメージができなかった。

 初公判が迫る中、別の取材の帰りに現場に立ち寄った。私が訪れたのは明るい時間ではあったが、照明設備がなく真っ暗な橋の上で、辱め、暴力、脅迫を受けた末に、欄干外側の幅10センチの床板に立たせられた高校生が感じたであろう恐怖の幾ばくかは感じることができたように思えた。

 内田被告の裁判では、高校生が橋から落ちた状況を巡り、証人として出廷した共犯の女と内田被告の主張が真っ向から対立した。内田被告は欄干から高校生が落ちた後、自力で欄干の外側に戻ってきたと主張したが、私には不可能だとしか思えなかった。旭川地裁は内田被告の主張の信用性を否定し、求刑通り懲役27年の判決を言い渡した。

 ある事象を理解し、適切に報道するには、少しでも多くの情報を得る必要がある。関係者に話を聞いたり、資料をあたったりするのはそのためだし、現場を踏むのも得られる情報がとても多いからだ。

 だが、情報を得るだけではないはずだ。心身を研ぎ澄まし、事実の切実さ、厳粛さを感得しなければならないと思う。

 現場を大切にする記者でありたい。

北海道報道センター旭川支局長 野田一郎
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