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世間を震撼させたクマ大量出没。北海道でも福島町の被害に続き知床で痛ましい登山事故が起きた。原因を長期的な視点で整理すると、①90年代初頭からのクマ類保護政策と狩猟人口減少で個体数が大幅増加し生息域も拡大 ②山地の針葉樹増加により餌資源の広葉樹や草本類が激減しミズナラ等の豊凶がクマの栄養状態を左右する事態が周期的に繰返している ③人口縮小で多くの中山間地が野生動物の領域になった ④これらが絡み合いヒトと野生動物との距離が保たれずクマの行動変容(アーバンベア化)が起きた、などが挙げられる。
こうした状況に市民が正しく向き合う為には、クマを正しく理解し自然への畏怖を忘れないこと。それに資する本をまとめて紹介したい。現在巷には、2023年の大量出没やOSO18関連のジャーナリスティックな書籍が溢れている。中には表面的現象、特殊な出来事を強調した興味本位と思われるものも散見される。科学的事実やデータに基づき研究者の手になるもの、或いは人生のほとんどを野生動物との交渉に費やした経験のある人によるものをお勧めしたい。
21年12月号『アーバン・ベア』(佐藤喜和著 東京大学出版会2021)と25年4月号『ヒトとヒグマ』(増田隆一著 岩波新書 2025)の2冊に加え、『日本のクマ』(坪田敏男・山崎晃司編 東京大学出版会 2011)と『ヒグマとつきあう』(ヒグマの会 2010)が、科学的解説により正しいクマ理解が進む基本文献。『にっぽんのクマ』(山崎晃司監修 カンゼン 2025)はルビ付の児童書だが、簡潔平易な文章と豊富なイラストによる必要十分な科学的解説があり世代を超えて学ぶことができる良書。
『クマにあったらどうするか』(姉崎等・片山龍峯 筑摩書房 2002)は「クマが私のお師匠さん」と言うアイヌ最後の猟師の姉崎の語りで構成され、今後目指すべきクマとヒトとの共生の叡智に溢れている。また、本紙232号の「地域を知る一冊」で紹介された『羆撃ち』(久保俊治著 小学館文庫 2012)も必読書だ。クマと対峙する久保の生き様から、野生動物とヒトとの距離の在り方について深い示唆が得られるだろう。
ジャーナリストの手になるものでは『世界を旅して見つめたクマと人の長いかかわり』(グロリア・ディッキー著 化学同人 2025)もよい。世界に8種いるクマたちの置かれた状況を訪ね歩くものだが、それぞれが人間との軋轢、人間による圧迫などの困難な状況を浮き彫りにする。
政府の「クマ被害対策パッケージ」が動き出し個体数調整も行われる。だが野生生物保護管理の実務を担う専門家が圧倒的に不足し、その育成も遅れている。野生動物との関係の在り方とそのために為すべきことを、市民が自ら考え、声を上げ、実践することが大事だ。
参考コラム:クマ問題から考える日本の未来社会(公益財団法人公益法人協会)
評者:鈴木幸夫 知床自然アカデミー業務執行理事・元朝日新聞文化財団事務局長