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1986年(監督:木下惠介)
ロケ地:函館


大ヒット映画には続編やリメイクが付き物だが、同じ監督が30年近く経った後、同じテーマに再度取り組み、全く新しいオリジナル作品として世に送り出すのは珍しいのではないか。「新喜びも悲しみも幾歳月」は、1957年の木下惠介監督作品「喜びも悲しみも幾歳月」同様、灯台の維持管理を行う職員=〝灯台守〟一家の物語。前作は上海事変が起きた1932年から25年間という月日が流れるのに対し、今回は1973年から本作公開年までの13年間を描く。
前作夫婦(佐田啓二&高峰秀子)の印象が強いだけに、正直、私はそれほど期待せずにDVDを取り寄せた。だが、始まってすぐ夢中になり、徐々に「これは、戦後に生きる私たちの物語だ…」と、涙をこらえながら画面に食い入った。
没入できた理由は2人のキャストにある。一人は主人公の灯台マン・杉本芳明(加藤剛)の父・邦夫を演じた、大好きな俳優・植木等! 本作出演時は還暦の頃で、持ち前の明るさに深みが加わり、一人息子の勤務地にひょっこり現れては観光名所を巡る老人を愛嬌たっぷりに演じていた。
もう一人は、芳明の妻・朝子役の大原麗子。函館ロケ「居酒屋兆治」(1983年、降旗康男監督)では寡黙な女性を演じた彼女だが、今回は真逆で、子どもの成長や引っ越し作業に小言が絶えない役どころ。その口やかましさは日頃の自分を見ているようで(汗)最初は敬遠したくなったが、さっぱりした物言いは気立ての良さから来ており、夫を支える素敵な女性なのだと分かるとかえって親近感が湧いた。特に終盤、彼女が船で外国に行く長男を見送る時につぶやいた一言は、戦争に翻ろうされた前作と異なり、平和な時代に生きる安堵が込められた見事なセリフで、胸に刺さった。


転勤先の一つとなった函館のシーンも、短いながら味わい深かった。高校生の次男らと青函連絡船で赴任した芳明は、冬の函館湾で防波堤灯台の点検をしたり、恵山岬灯台に巡回したりと忙しい日々。その間、次男はおじいちゃん・植木と一緒の時間を過ごすのだが、この時交わすたわいもない会話が、実は後々、深い感慨をもたらすと分かった時、私の涙腺はもう崩壊した。
ぜひコラムで紹介したいと準備していたら、ロケに携わった方が鹿追にいると知ってびっくり。それは本誌254号(25年10月発行)の特集にご登場下さった鹿追ロケ「おしゃべりな写真館」(24年)の藤嘉行監督。20代の頃、助監督の一人として参加し、「テレビドラマの忙しい現場しか知らなかったので、イスの位置一つに時間を掛ける映画の現場は新鮮でした。北海道ロケはとても寒く、結婚式の舞台となった教会(函館聖ヨハネ教会)が見事だったことを覚えています」と回想。その後も色々な監督の元で経験を積み、テレビドラマの演出を中心に活躍した藤監督は「現場の雰囲気は画(え)に出ます。木下組はあの1本だけでしたが、木下さんの人間的魅力に触れ、松竹らしい少しのんびりした現場を体験できたことは、今の仕事にも生かされていると思います」と話してくれた。
〝海の道しるべ〟灯台を守る人々の日常に、さまざまな思いを託した木下監督。その温かくて優しい眼差しを知る人が、ここ北海道で映画を撮っていることが、何だか誇らしい。
ライター、ZINE「映画と握手」発行人。2007年にこの世を去った植木等さん、クレイジーキャッツもスーダラ節もリアルタイムではないのですが、2002年の出演ドラマ「ビッグマネー!~浮世の沙汰は株しだい~」で演技を初めて見て、映画「クレージー作戦 くたばれ!無責任」(1963年、坪島孝監督)にぶったまげてファンになりました。ちなみに今年は生誕100年の節目だそうです!
