1981年(監督:降旗康男)
ロケ地:小樽、札幌、増毛ほか

居酒屋のカウンターで、男と女が酒を酌み交わしている。男は通りすがりの一見さん、女は店のママだ。意気投合した2人は昼間に逢い、大晦日の夜も店で過ごすことに。熱燗片手に眺めるテレビは「紅白歌合戦」の真っ最中。八代亜紀の「舟唄」が流れてくる…。年の瀬が近づくと思い出す、映画「駅 STATION」のワンシーン。高倉健さんと倍賞千恵子さんが肩を寄せ合う姿はいかにもお似合いだが、人生の酸いも甘いもかみ分けた大人同士のほろ苦さも漂う。
「駅 STATION」は、脚本家・倉本聰さんが健さんのために書き下ろした作品。優秀だが、人一倍ストイックな刑事・英次(高倉)の人生を、妻・直子(いしだあゆみ)、事件容疑者の妹・すず子(烏丸せつこ)、居酒屋のママ・桐子(倍賞)という3人の女性との関わりを通して描く。タイトルの通り、北海道の駅でドラマが繰り広げられるのも見どころだ。
まずは小樽・銭函駅。雪の舞うホームで、離縁した妻と息子を見送る健さんの姿から物語は始まる。6年前、私は映画と変わらぬ佇まいの銭函駅を取材したが、数日後に健さんが亡くなったことを知り、半泣きで原稿を書いたことを覚えている。 すず子のエピソードでは、上砂川駅がクライマックス現場に。徹夜で撮影されたという緊迫シーンの背景には、石炭輸送の拠点地だった往時の景観が広がる。
物語の後半、英次が愛を交わす女性・桐子を最初に見かけ、最後は想いを押し殺して立ち去るのが増毛駅だ。真冬の小さな木造駅舎が、男女が心を駆け引きするスリリングな舞台にふさわしく見えるのは映画の魔法だろうか。増毛駅は2016年に廃駅となったが、駅舎は交流施設に変転。17年には駅前にあるロケ地兼観光案内所「風待食堂」内に居酒屋「桐子」のセットが再現された。この秋訪れたところ、カウンターには健さんの追悼記帳簿がそっと置かれ、愛惜の念が館内に満ちていた。
道内各地でロケが行われただけに、ご記憶の方も多いだろうが、北海道大学野球部監督の秋野禎木さんは、札幌で撮影された人質事件シーンにエキストラ出演した一人。当時北大生だった彼は、野球部の仲間と機動隊員役で参加。「体格がいいから狙撃隊の役も」とスタッフに頼まれ、ロケ車で待ったところ、出前持ちに扮した健さんが乗り込んできて仰天したとか。「不覚にも出演者を知らず、本番は僕のせいでNGを4回出してしまいました」と秋野さん。すると、健さんが帽子をかぶり直させてくれ、「緊張しなくて、いいんだよ」とほほ笑んだそう。「結局ほとんどカットされましたが、あのかすかな笑顔にドジ学生は本当に救われました。今思えば、『優しさ』という言葉では言い表せない、もっと深い何かを感じさせてもらったような気がします」と振り返る。
孤独や悲しみを知った分だけ、人は優しくなれる。どこまでも格好いい健さんの姿を思い浮かべながら、この一年を乗り切った我が身と家族、世界中の人たちを労りたい。

イラスト&文 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。年末年始に鑑賞するなら、倉本聰さんが高倉健さん作品を初めて書いた1977年のテレビドラマ「あにき」もぜひ。若々しい健さんはじめ、キャストが豪華! 幼馴染の居酒屋ママ役は倍賞千恵子さん。もちろん、2人のカウンターシーンもあります。