2010年(監督:土井裕泰)
ロケ地:釧路、白糠、浜中

タイトルだけで、切なくも艶のある、あの独特な歌声がよみがえる。映画「ハナミズキ」は、大ヒットした一青窈の同名曲をモチーフに制作されたラブストーリー。主演はガッキーこと新垣結衣と、室蘭出身の生田斗真。道東を舞台に、一組の男女の出会いと別れ、再会までの10年間をドラマチックに綴る。
海外で働くことを夢見る高校3年の紗枝(新垣)と、コンブ漁師の父を手伝いながら別の高校に通う康平(生田)。生まれ育った環境は異なる2人だが、偶然の出会いから恋に落ち、付き合うようになる。ところが、紗枝が念願だった東京の大学に合格したことで遠距離恋愛に。2人はすれ違っていく……。
乗り合わせた列車がシカと衝突という〝北海道あるある〟アクシデント(笑)から始まる2人の物語。駅のホームや列車内、学校の正門前(釧路北陽高がロケ協力)など、高校生の日常にときめく瞬間が巧みに織り込まれる。もし私が同世代ならドキドキするだろうなぁ……と観ていた中でも、特に胸キュンだったのがファーストキスのシーン!ロケ地は浜中町の霧多布岬にある湯沸岬灯台。夕暮れに染まる2人を背後から見つめるようなショットが実に美しかった。この灯台は2016年、日本財団などが認定する「恋する灯台」に選ばれており、9月の「きりたっぷ岬まつり」で一般公開されている。
映画誕生の出発点となったハナミズキは、紗枝が母・良子(薬師丸ひろ子)と暮らす家の敷地にある。戦場カメラマンだった亡き父・圭一(井浦新)との思い出が詰まった大切な樹木であり、ガッキーと生田の節目の瞬間に彩りを添える存在として描かれていた。本州ではなじみ深いハナミズキだが、実は東北地方が北限で、寒さが厳しい北海道ではあまり見かけない。釧路の一般住宅を借りて行われた「紗枝の家」の撮影では、特別に植えられ、ロケ終了後に撤去されたそうだ。
ハナミズキの自生しない北海道が、なぜ映画のメイン舞台になったのか。インターネットで公開されている那須田淳プロデューサーと土井裕泰監督のインタビュー(2010年、デジタルハリウッド大学)によれば、脚本家の吉田紀子さんとともに「ハナミズキ」の歌詞からイメージを自由に膨らませ、「北海道で暮らす男女の遠距離恋愛」や「幼い娘の成長を見守れず若くして亡くなった父親の思い」などの設定を生み出したとか。「100年続きますように」というフレーズから、土井監督は「単なるラブストーリーではなく、ライフストーリーになるように」と考えたそうだが、人生の苦さを経験した2人にとって、故郷である道東の穏やかな景色は、高校時代とは違う見え方をしたかもしれない。
ところでこの歌詞は、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロに胸を痛めた一青窈が「報復の心が収まってほしい」と願って紡いだという。人が恋をし、愛を謳歌する根底には、平和が欠かせない。「ハナミズキ」の花言葉は「返礼」「私の想いを受けとめてください」。戦争の悲劇が遠くない場所で繰り返されている今、歌や映画に込められた思いを強く噛み締めたい。

イラスト&文 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。脚本の吉田紀子さんは倉本聰さん主宰の富良野塾2期生。北海道ゆかりの映画人の活躍を改めてうれしく思います! ちなみに、本作と同じ釧路を舞台にした純愛映画といえば、2012年に「僕等がいた」(三木孝浩監督)が前・後編で制作されました。中島みゆきさんの名曲から生まれた上富良野・札幌ロケの話題作「糸」(2020年、瀬々敬久監督)も記憶に新しいですね。