2019年(監督:塩田明彦)
ロケ地:函館

あいみょんの歌を、最近よく口ずさんでいる。現在放送中のNHK朝の連続テレビ小説「らんまん」の主題歌ではなく、この映画の挿入歌「誰にだって訳がある」の方だ。あいみょんが作詞・作曲し、門脇麦と小松菜奈が演じるデュオ・ハルレオが劇中で歌う、あの飾り気のない歌が、心から離れない。
物語は、ハル(門脇)とレオ(小松)が演奏旅行に出発する場面から始まる。これから全国7都市を回るというのに、2人の表情は硬い。その理由は、マネージャー・シマ(成田凌)の言葉でわかる。「2人とも、解散の決心は変わらないんだな」。路上ライブから始め、今やテレビ取材を受けるほど人気の歌い手となった彼女たちに、何があったのか。ツアーと並行して過去の回想シーンが描かれ、ハルとレオ、そしてシマの複雑な心境が明かされていく……。
浜松(静岡)、四日市(三重)、大阪、新潟、酒田(山形)、弘前(青森)。北上する旅の最終目的地は、北海道の函館だ。実在する「金森ホール」が、〝解散ツアー〟最後のライブハウスとして登場する。
金森ホールといえば、函館港イルミナシオン映画祭の会場だった場所。私も函館にいた頃、ここで上映作品を観たり、パーティーでゲストと交流したりした。そんな思い出を懐かしみながらクライマックスのライブシーンを観ていたら、音響マン役に知った顔が! 映画祭の市民スタッフ・笹井完一さんだ。
久しぶりに連絡を取った笹井さんによると、函館では金森ホールのほか、「多目的スペースあうん堂」「BAND WAGON」という2ヶ所のライブハウスでも撮影が行われたそう。あうん堂はツアー2ヶ所目の四日市会場、BAND WAGONは6ヶ所目の弘前会場に見立てられ、「時間軸に沿ってひとつのストーリーに仕上がったのを観て感激しました」と振り返る。
映画祭に20年ほど携わり、年1本は函館ロケを手伝うという笹井さんにとっても、本作は「特別な1本」になった。なぜなら彼の本職は、映画さながら、ライブを舞台裏から支える音響のプロ。しかも出演した金森ホールは、18年間勤めた職場で、退職した時期がちょうど撮影と重なり、「ロケの協力が、金森ホール最後の仕事となりました」と話す。
笹井さんが現在働く場所は、もうひとつのロケ地・あうん堂だ。オーナーから運営を引き継いだ会社の社長さんが、店の歴史をよく知る人物として笹井さんに声を掛けたそう。そもそもあうん堂とは、高校時代のGLAYもライブしたという伝説的なライブハウス。「あうん堂は、私にとって多感な時期を過ごした大切な場所。何としてもなくしたくない、という思いで転職を決意しました」と笹井さんは語る。ところが、直後にコロナ禍に見舞われ、経営はピンチに。クラウドファウンディングやオンラインでのグッズ販売などで苦境を乗り切り、老舗ライブハウスの灯を守り続けている。
劇中、ライトを浴びるミュージシャンを見つめ、歌を口ずさみながらリズムを取る笹井さんの動きは、演技ではなく、自然に出たしぐさだという。音楽に生きる映画の登場人物たちと笹井さんの姿が重なる。あいみょんの言う通り。誰にだって、映画のどのシーンにだって、ワケがある、のである。
文&イラスト 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。劇中、ハルレオの熱烈なファンとして登場した新谷ゆづみ&日髙麻鈴コンビ(金森ホールの外のベンチで曲を聞くイラストの女子高生2人です)。デュオを好きな理由を聞かれ、突然歌い出し、泣いた様子がとても印象的でした。なんとあれは即興の演技で、塩田明彦監督にとっても衝撃だったそう。そんな体験から、彼女たち2人を主演に迎えた塩田監督の新作「麻希のいる世界」が2022年から公開中です。ところが、北海道の劇場では未公開(2023年5月時点)。ぜひスクリーンで観てみたい
