1959年(監督:成瀬巳喜男)
ロケ地:

「コタン」とは「集落」を意味するアイヌ語で、最近では朝の連続テレビ小説「なつぞら」主題歌の歌詞に登場して新鮮な思いがした。朝ドラといえば国民的ドラマだが、本作も国民的ベストセラーの同名児童文学が原作。ロケ嫌いで知られる巨匠・成瀬巳喜男監督が、千歳を中心に2ケ月間の北海道ロケに挑んだ意欲作でもある。
中学3年のマサ(幸田良子)と1年のユタカ(久保賢)は、日雇い労働者の父・イヨン(森雅之)と札幌近くのコタンで暮らす姉弟。優しくしっかり者の2人だが、アイヌの子という理由から差別を受けることがあり、そんなときは小学校時代の担任・中西先生(土屋嘉男)を頼りにしていた。
映画が公開された60年前は、今より偏見が激しかった時代。アイヌの子の生きづらさは想像するに余りあるが、彼らの悲しみや噴りは、映像を通して直に触れることができる。そしてその痛みを、同じ土地に生まれ育ちながら見過ごしてきた責任を痛感する。
映画は、前向きな姉弟を悲劇が襲い、哀愁漂うラストを迎える。けれど原作には続きがあり、さらに過酷な運命が2人を待ち受ける。特に、敬虚なキリスト教一家に引き取られたマサが、周囲に優しくされればされるほど自分を追い詰めてしまう下りには泣かされる。そこから這い上がり、生きることを見つめ直すまでが後編の感動的なクライマックスだ。
また原作は、姉弟がイヨンや隣りに住むイカンテ婆ちゃんからアイヌに伝わる物語や歌、自然観を教わる場面も多く、アイヌ文化の豊穣さを知ることができる。さらに、和人の音楽や美術、文学を通じて感性を深め、成長する2人の様子は、清新な読後感を残す。
原作の筆者・石森延男は札幌出身。教員生活の後、教科書編纂官となって満州に渡り、戦後の日本でも文部省の図書監修官として教科書編纂に携わりながら児童文学を志した。原作の作品を書き始めたのは、文部省を辞めた1949年から。子どものころ親しかったアイヌへの思いや、人はなぜ争うのかという根源的な問いを込め、8年掛かりで完成させたという。原稿用紙1500枚に及ぶ大作は当初出版を断られたそうだが、刊行すると反響は大きく、第1回小川未明文学賞などを受賞。ラジオやテレビで連続ドラマ化されスケール感の大きさから”戦後の児童文学を変えた名作”とされている。
9月28日(土)には、私の参加するNPO法人「北の映像ミュージアム」が本作を札幌で上映する。映画をご覧になって、その先が気になった方は原作を読んでみてほしい。物語の中に、マサとユタカは生きている。アイヌ新法が施行され来年4月には国立の民族共生象徴空間「ウポポイ」が白老にオープンする「今」という時代を、2人のつぶらな瞳は真っ直ぐ見つめている。
イラスト&文 新目七恵(あらため・ななえ)9月1日(日)にさっぽろテレビ塔で開催されるZINEイベント「NEVER MIND THE BOOKS(11:OO〜18:3O)」に出展します!オリジナル映画グッズも製作中。よければお越しください。