1985年(監督:熊谷勲)
ロケ地:夕張

「俺、山口登。紅葉沢小学校3年。もうすぐ4年です。これ、俺の姉ちゃん、知香(ちか)。体は大きいけど、運動神経は俺よりよっぽど鈍い」
映画「ユーパロ谷のドンベーズ」は、主人公・登のちょっと生意気なナレーションで始まる。冬の朝、楽しそうな登校風景が映し出されるが、実は5カ月前に父親(森次晃嗣)が炭鉱事故に巻き込まれ、遺体が戻らないまま、母親(佐藤オリエ)と姉と3人、炭鉱住宅で暮らしていることが明かされる。
夕張を舞台にした映画といえば「幸福の黄色いハンカチ」(1977年、山田洋次監督)があるが、本作はその8年後、夕張でオールロケした隠れた秀作だ。〝隠れた〟と言うのは、長らくフィルムかVHSでしか観ることができなかったため。私は3年前にレンタルビデオを取り寄せ、斜陽期の炭鉱街で暮らす子供たちが活写された内容に共感。イラストを描きためていたところ、このたびDVD化された! 満を持して紹介できることを嬉しく思う。
映画では詳しく説明されないが、炭鉱事故とは1981年10月16日、北炭夕張新鉱で起きたガス突出事故のこと。坑内火災も起き、59人が安否不明のまま坑内注水を行い、犠牲者は93人に上った。最新炭鉱だった同鉱は翌年閉山。炭鉱労働者と家族の人生はおろか、夕張の町自体を大きく変える惨事となった。
物語は、閉山決定の前後約1年間を描く。といっても、暗い雰囲気ばかりでは決してない。一人、また一人と友達が町を去る中、置き土産のモルモットを教室で飼育したり、残った仲間とキャンプで笑い合ったり、ささやかな日常の営みがあったことを丁寧に綴る。と同時に、そうした日々の中に、家族を失った悲しみが静かに流れていることも。率直な子どもの思いをすくい上げるような脚本は、夕張市立紅葉山小学校(1986年に統廃合)の1982年卒業文集を原案にしているからだろう。
「プロ野球選手になって巨人に入団し、契約金5000万円をもらうこと!」を夢見る登。その第一歩が、小学校の野球チーム「ドンベーズ」だが、グローブもユニフォームも用意できない彼は蚊帳の外。それでもめげず、練習にちゃっかり参加する姿が愛らしい。熱意が実り、晴れてチームの一員となるものの、人数不足で女子部員を募ることになると、なんと知香がレギュラーに抜擢! 猛烈に悔しがる登少年を好きになったら、後半のクライマックス、他校との対戦試合の展開から目が離せなくなるはずだ。
「ドンマイ!」の掛け声が優しいラストを見届け、私はある人物を思い出した。2022年11月に亡くなった吉岡宏高さん。三笠の炭鉱で育った経験と豊富な知識を生かし、NPO法人炭鉱(ヤマ)の記憶推進事業団理事長を務め、「負の遺産」と言われた炭鉱のイメージ払拭に功績を残した方だ。私は取材で何度かお会いし、劇中にも登場する石炭博物館を案内いただいたこともあった。そこで著書『明るい炭鉱』(創元社)を読み返したところ、彼は大学生の時、夕張新鉱閉山の是非を議論する労組の臨時大会を目撃したと書いてあるではないか! 当時のヤマの空気感を知る吉岡さんの感想を、ぜひとも聞いてみたかった。
文&イラスト 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。著書『明るい炭鉱』の中で吉岡宏高さんが挙げたお薦め炭鉱映画は、佐賀や長崎を舞台とした「にあんちゃん」(1959年、今村昌平監督)でした。話は変わりますが、〝幻の北海道映画〟の1本が富良野ロケ「大地の冬の仲間たち」(1972年、樋口弘美監督)。原作となる美唄出身・後藤竜二さんの児童文学作品『大地の冬のなかまたち』(『天使で大地はいっぱいだ』の続編)が非常に面白いので、いつか観てみたい。ソフト化されますように!

