1965年(監督:石井輝男)
ロケ地:網走

田中邦衛が亡くなった。享年88。
ドラマなら、富良野ロケ「北の国から」で演じた子ども思いの実直な父・黒板五郎をまず思い浮かべるが、北海道ロケの映画にも、意外とたくさん出演している。手元の資料やインターネットで調べたところ、網走・恵庭ロケ「人間の條件 第三部」(1959年、小林正樹監督)から羅臼ロケ「ひかりごけ」(1992年、熊井啓監督)まで、25本。そのうち15本が、高倉健の主演映画である。プライベートでも親交を深めたという2人の初顔合わせとなった作品が、「網走番外地」だ。
「網走番外地」は、東映の看板スター・健さんの人気を不動にした大ヒットシリーズの1作目。哀愁漂う主題歌をご記憶の方もいるだろうが、実はその6年前、日活で同名の映画が作られたことはあまり知られていない。強烈なタイトルは、網走刑務所に服役した伊藤一の実録小説から。松尾昭典監督の日活版は、原作通り囚人(小高雄二)と妻(浅丘ルリ子)の純愛を描いたのに対し、東映版は1958年のアメリカ映画「手錠のままの脱獄」(スタンリー・クレイマー監督)に着想を得たアクション娯楽作に仕上がっている。
極寒の地・網走刑務所に入れられた主人公・橘真一(高倉)は、「筋が違ったことは大嫌い」なヤクザ。横柄な先輩受刑者・依田(安部徹)になびかず理不尽な懲罰を受けることもあるが、親身な保護司・妻木(丹波哲郎)の支えもあり、病身の母に一目会おうと苦役に励んでいた。ところが、釈放まであと半年という時、仲間が脱獄を計画。手錠で繋がれた権田(南原宏治)に引きずられて脱走してしまった橘は、怒り心頭の妻木に追われ、必死に逃亡する羽目になる。
北海道の大雪原を舞台にしたこの追走劇がクライマックス。トロッコを使った迫力満点のシーンは新得にあった十勝上川森林鉄道で撮影されたそうだが、石井監督は後年、「三人(高倉、南原、丹波)とも真剣だった。怖かった」と、北海道の地方紙への寄稿で振り返っている。
さて、田中が演じるのは、橘と同じ雑居房の囚人・大槻。窃盗や置き引きなど重ねた罪を自慢するお調子者な役どころだ。第2作「続網走番外地」では〝橘の舎弟〟として派手に登場する大槻だが、初対面となる本作ではよそよそしい。ただ、声を掛けた健さんにタレ目を茶化されるシーンがあり、一匹狼・橘のユーモラスな表情が垣間見えた。そういえば、健さん演じる主人公の幼馴染みを田中が演じた函館ロケ「居酒屋兆治」(1983年、降旗康男監督)でも、2人の微笑ましい掛け合いが実に楽しかった。寡黙な役が似合う健さんでさえ、心を開く親しみやすさが、田中の魅力の一つだった。
ちなみに、「網走番外地」シリーズは全18本。第4作「北海篇」までしか観ていない私にとっては、我らがアンチヒーロー・橘と愛すべき相棒・大槻コンビの旅は始まったばかりだ。名優の訃報は悲しい。けれど映画を観れば、何度でも若い2人に会える。だから私は、さみしくはない。

イラスト&文 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。映画通の知人によると、田中邦衛さんの出演映画は250本近く! 北海道ロケ以外なら、「ウホッホ探険隊」(1986年)「息子」(1991年)「学校」(1993年)「みんなのいえ」(2001年)をもう一度観たいです。