2002(監督:崔洋一)
ロケ地:網走、美幌

刑務所が舞台の映画といえば、無実の囚人が苦難を乗り越える感動作や脱獄劇を連想するけれど、「刑務所の中」は全く違う。主人公は、改造銃の所持により銃刀法等違反で逮捕されたハナワ(山﨑努)。彼はなんと、ムショ暮らしにちゃっかり順応。3度の食事に喜々とし、受刑者との交流を楽しみ、懲罰房も前向きに挑戦。〝刑務所の中〟をほのぼの描くコメディーとは異色だが、原作者である漫画家・花輪和一の実体験が基というのも、驚きだろう。
ハナワと同居者(香川照之、田口トモロヲ、松重豊、村松利史)の会話にくすくす笑い、おいしそうな刑務所メシに喉を鳴らし、監視・規則だらけの日々が他人事とは思えなくなってくる。愛すべきこの快作を紹介するに当たり、私は考えた。あの方に連絡してみようと。それは、札幌在住の俳優・斎藤歩さん。刑務官役で出演され、受刑者を鋭い眼光でビシッと指差すシーンが印象に残っていた。
とはいえ、脚本家・演出家として多数の演劇作品に携わり、北海道演劇財団理事長も務める斎藤さん。昨秋にはがんで余命宣告されたと報道で知った。ダメもとで趣旨を伝えたところ、「実に思い出深い作品です。喜んでお受けします」と即答いただき、お会いしたのが9月の初め。対面した斎藤さんは、舞台上の彼とはまた違う迫力があり、と同時に、飄々(ひょうひょう)とした優しさを漂わせていた。そうして伺った思い出話が、面白いのなんの! 紙幅が許す限り、できるだけたっぷりとお伝えします。
「『刑務所の中』は、私が演劇を一度完全に辞めて、映画の世界に挑戦し始めた頃の出演作です。東京でのオーディションは、作品名を明かされなかったんですが、セリフを読むうち気付きました。『これ、花輪さんの漫画じゃないですか?』って。実は私、花輪さんを昔から知っていて……劇団を主宰していた1980年代、客演した舞踏公演のポスターが花輪さんの絵だったこともあったんです。だから1994年、彼に実刑判決が出た時、嘆願書に署名したんですよ(※)。結局彼は控訴せず、刑務所から出てきたと思ったら、漫画を発表したでしょう。すぐ買いました。そんな縁があったんです。すると、崔洋一監督から『札幌の人間なら3週間ずっと網走の現場に居られるか』と言われ、方言指導も担当することに。エキストラとしてTPS(現・札幌座)の若い俳優5、6人を連れていったところ、セリフはないものの、ちゃんと顔を映してくれました。しかも、エキストラなのに全員ギャラをもらって……たぶん、監督のポケットマネーだと思います。崔さんは、そんな人でした。私は随分、怒られましたけど(笑)。でもその頃、演劇の世界で私を叱る人はもういなくて、『カメラが回ってもすぐに動くな!』など怒鳴られるのは何だか嬉しかったなぁ……。映画作りをイチから教わった作品です。キャストは男ばかりで、泊まり込みでしたから、毎晩、宴会騒ぎ(笑)。山﨑努さんと2人きりになった時には『今回の台本(ホン)どう思う? 漫画に勝てるかどうかなんだよ』なんて話を振られたりして……。僕にとっては忘れられない、本当に楽しい現場でした」
紹介しきれない撮影秘話は、いつかのためにとっておく。この日、斎藤さんが持ってきてくれた20年以上前の台本は、とてもきれいな状態で、大切にされていたのがよくわかった。
※通常なら執行猶予程度の罪にも関わらず、花輪さんに実刑判決が出たのは、当時ロシアから銃の密輸が激化した背景などがあり、見せしめ的な意味があったそう。

文&イラスト 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。斎藤歩さんの出演映画は80本近くあり、北海道ロケ「許されざる者」(2013年、李相日監督)「日本で一番悪い奴ら」(2016年、白石和彌監督)「ホテルローヤル」(2020年、武正晴監督)などにも出演されています。余談ですが、2009年のアニメ映画「サマーウォーズ」の侘助おじさんの声も担当されてます! ちなみに、札幌・シアターキノの壁には「刑務所の中」の崔洋一監督サインがあります。探してみてください!
