2015年(監督:呉美保)
ロケ地:小樽

「母親」になって早7年。演技だと分かっていても、子どもが親に痛めつけられるシーンは苦手だ。子どもが可哀想なのはもちろんだが、子育てに奮闘し、日々自己嫌悪と反省を繰り返す我が身を振り返り、とても他人事とは思えないのが理由。だから久しぶりに小樽ロケ「きみはいい子」を観て、のっけから何度も目をそらしたくなった。ママ友の前では笑顔を見せながら、家に帰ると3歳の娘・あやね(三宅希空)に手を挙げてしまう雅美(尾野真千子)。彼女の姿を憎らしいと思う方も、私のように痛々しく感じる方も、まずは最後まで観てほしい。きっと、タイトルに込められたメッセージを感じ、心が少し軽くなるはずだから。
原作は、第28回坪田譲治文学賞や2013年本屋大賞第4位に選ばれた中脇初枝の同名小説。幼児虐待やネグレクト、学級崩壊、認知症など、それぞれ問題を抱える人々が同じ町に暮らす様子を5編の短編から描き出す作品だ。映画はこのうち3編で構成され、尾野演じる母親のほか、児童との向き合い方に悩む新米小学校教師(高良健吾)、自閉症の少年と交流する一人暮らしの老女(喜多道枝)のエピソードが綴られる。
原作小説では、丘の上に小学校があり、宅地造成で急に発展した「桜が丘」という町が舞台とされ、地域は特定されなかったが、映画のロケ地には小樽が選ばれた。2014年、呉美保監督に会う機会を得てその理由を聞いたら、「映画ならではの印象的な画にするため、全国の”坂のある街”をリサーチする中、新旧の市街地の中にほどよく坂道がある雰囲気が良かった。マンション群がある場所に、もう動かない観覧車があったのも決め手です」と話していた。
観覧車とは、JR小樽築港駅直結の複合商業施設・ウイングベイ小樽が、マイカル小樽として開業した1999年から運営していた大型観覧車「レインボークルーザー」のこと。築港エリアのランドマークとして親しまれたが、2011年に稼働停止。本作公開の3か月後、2015年9月に解体・撤去された。確かに、劇中に何度も登場するカラフルな観覧車は、重たい展開が続く画面に不思議な明るさをもたらしていた。特にラストシーン、教師の高良が、いつもグラウンドの隅にいた児童のある思いに気づいてダッシュする場面では、背後に大きく映り込み、気弱な彼の背中をそっと押しているようにも見えた。「北の街の風情はありますが、描いたのは誰にでも起こり得る普遍的な感情の揺らぎです」とは呉監督の言葉だが、北海道の何気ない景色が、この切ない物語に彩りを添えたのなら、地元の映画好きとしてやはり嬉しい。
実は私は、呉監督の前作・函館ロケ「そこのみにて光輝く」を応援した縁から、本作のロケハン準備に協力。撮影が始まり、現場見学させてもらった日が集合写真の撮影日で、キャストやスタッフと一緒に写る1枚が今も手元に残っている。当時1歳の息子(爆睡中)を抱く6年前の自分に伝えたい。あなたはこれから、何度も壁にぶつかり、孤独を感じるときもある。でも大丈夫。この映画のように、身近な誰かの存在に支えられるから。どんなに泣いたって、ちゃんと笑える日がくるから。

イラスト&文 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。高良健吾の同僚を演じた小林なるみさん、尾野真千子のママ友の一人・大橋千絵さんは札幌で活動する役者さん。小林さんは「そこのみにて光輝く」にも出演されたので探してみてください。ちなみに、観覧車「レインボークルーザー」は現在台湾で活躍中だそうです