1985年(監督:相米慎二)
ロケ地:札幌、函館

そろそろ北海道でも、桜の開花が始まる頃だろうか。
「雪の断章 -情熱-」は、高校生・伊織(本作が映画デビューの斉藤由貴!)が殺人事件に巻き込まれるミステリー。終盤、札幌・豊平川の川べりにある公園で、彼女が刑事と会話する場面では、どっかりそびえる満開の桜が印象的だった。
1970年代に中高生だった方は、タイトルでピンと来るかもしれない。原作『雪の断章』は、当別出身の作家・佐々木丸美デビュー作。身寄りのない少女の心の揺れ動きをリリカルな文体で描いたこの小説はベストセラーとなり、後の3作と併せて「孤児シリーズ」と呼ばれるように。小説の発表(1975年)から約10年後、当時の気鋭監督・相米慎二によって映画化されたのが、本作である。
物語は、裕福な那波家の養女でありながら、使用人扱いを受ける7歳の伊織が、雪降る札幌で優しい青年・雄一(榎木孝明)と出会うところから始まる。状況を知り、周囲の反対を押し切って彼女を引き取る雄一。10年後、伊織は明るい高校生(斉藤)に育ち、雄一と、彼の親友・大介(世良公則)と固い絆で結ばれていた。そんなある日、雄一のアパートに那波家の長女・裕子が引っ越してくる。ところが歓迎会の日、裕子は自室で息を引き取っていた……。
公開時の観客、特に原作ファンは、映画館でびっくり仰天したのではないか。何しろ伊織が雄一に引き取られるまでをわずか12分にまとめ、ワンカットで展開したのだ! 直後、ヒロイン・斉藤の登場姿も衝撃的で、バイク後部座席で頭に花を載せている! さらに、数奇な運命に翻ろうされる彼女は、豊平川をジャブジャブ歩くわ、泳いでハトを助けるわ、線路でピエロと遭遇するわ……。小説と映画は別物(実際、登場人物名は原作と違う)とはいえ、脳裏に「?」が浮かぶシーンてんこ盛りなのである。
そんなことを言うと、相米監督は怒るかもしれない。薬師丸ひろ子主演「セーラー服と機関銃」(1981年)をヒットに導いた彼は、長回しやロングショットを多用することで知られ、その持ち味は本作でも発揮。ちなみに、6歳から北海道・標茶に住み、札幌と釧路で多感な時期を過ごしており、北海道ゆかりの映画人でもある。だからなお、本作への理解を深めたいのだけれど……。
没後20年の特集本『相米慎二という未来』など資料を集め、札幌の映画雑誌『BANZAIまがじん』1985年創刊号の札幌ロケ記事を見つけた私は、また驚いた。冒頭で挙げた桜吹雪のシーン。なんと、花びらは紙!実は撮影は10月に行われ、
〝季節外れの桜〟を具現化すべく、スタッフが本物の木に張り付けたそうだ。
その情熱に感服すると同時に、妙に納得。意味不明ながらも、なぜか惹きつけられるシーンの数々は、そうした地道な作業に支えられたのだろう。
相米監督といえば、今から10年以上前、遺作「風花」(2001年、上川・佐呂間ロケ)の札幌上映会に足を運んだ私はスクリーンにくぎ付けになった。テレビ画面で観た印象とは異なり、〝画力〟が素晴らしかったのだ。だから本作もどこかの劇場で出会ったら、きっと違う輝きを見せてくれるに違いない。
文&イラスト 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。佐々木丸美さんの原作『雪の断章』は、冬の札幌描写が繊細で、メルヘンな香りも漂う素敵な小説です! ちなみに、今年の〝映画館初め〟は、相米慎二監督「お引越し」(93年)と「夏の庭 The Friends」(94年)in札幌・シアターキノ。大好きな2本を4Kリマスター版で観ることができ、至福のひとときでした。
