1999年(監督:降旗康男)
ロケ地:南富良野

「幌舞(ほろまい)駅」のホームには、小雪がちらついていた。
札幌で遅い初雪が降った11月下旬、南富良野町に向かった。高倉健主演の映画「鉄道員(ぽっぽや)」のロケ地・幾寅駅を訪れるのは何年ぶりのことだろう。同駅を含むJR根室線富良野―新得間は廃止方針が示され、台風被害を受けた2016年からは、バスによる代行輸送が続いている。駅や周辺に保存されたロケセットがどんな状態か、ずっと気になっていたが、「幌舞駅」の看板を掲げた木造駅舎を目にした途端、そんな心配は吹き飛び、懐かしい映画の記憶がよみがえった。
舞台は、北海道の小さな町に佇む終着駅「幌舞」。かつては炭鉱景気に沸き、今では数人しか利用しないこのローカル駅を一人で守ってきた老駅長・佐藤乙松(高倉健)は、定年を目前にしていた。鉄道一筋、まさに〝ぽっぽや人生〟を送ってきた乙松だが、生まれたばかりの一人娘が急死した日も、長年連れ添った妻・静枝(大竹しのぶ)が亡くなった日も、ホームに立ち続けたことに苦い悔恨を抱いていた。そんな彼の前にある夜、赤いマフラーをした愛らしい少女が現れるのだった…。
乙松が少女と最初に出会うホームは、駅舎の待合室を抜けた先にある。外階段を上ると、映画の面影そのままに、こじんまりしたホームが残されていた。単線のレールはまっすぐ延び、草は少し生えているものの、旧国鉄色のディーゼル車が今にも走ってきそうな気配を漂わせている。案内板によると、幾寅駅が選ばれた一番の理由は、この「駅舎とホームの行程」にあったそう。「段差があり、階段でつながれていることによって、駅舎からホームへ行くまでの『ため』『情感』が表現されている」という一文を読み、年老いた乙松が、何度も階段を上り下りする情景を思い出した。
ホームとともにメイン舞台となった駅舎の内部も、大切に保管されていた。待合室に隣接した駅員の業務スペースは映画の資料展示コーナーになっていて、ロケ写真や出演者のサイン、映画に使われた衣装などが所せましと並べられている。感激したのは、デスクの上に健さんの写真が置かれ、缶コーヒーや缶ビールが供えられていたこと。館内の随所には花も飾られ、温かい心配りを感じた。
2020年3月、新型コロナウイルス感染症に伴う肺炎のためこの世を去った志村けんに関する新聞記事も展示されていた。九州から北海道に流れてきた子持ちの炭鉱夫・吉岡肇として、回想シーンに登場する。コメディアンである志村にとって本格的な映画出演は初めてだったが、憧れの大スター・健さんの後押しもあり、異例のキャスティングが実現したそう。浅田次郎の原作小説ではほとんど触れられない人物だが、劇中では、時代に翻弄された市井の人として観客の脳裏に強い印象を残す。
映画をご覧になった方は、正月を迎えた乙松の身に起きた奇跡を覚えておられるだろうか。私が本作を初めて観たのは高校生の時だったが、不思議な少女(3人目を演じるのは、10代の広末涼子!)の正体を知ったとき、大号泣したことを覚えている。あれから22年。物語を追うように、現実は厳しさを増している。それでも、だからこそ、名作は人の心に寄り添ってくれる。私と入れ替わるように来館し、熱心に見学するご夫婦の姿を見て、胸が一杯になった。

イラスト&文 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。「幌舞駅」こと幾寅駅の映画資料展示コーナーは毎日午前9時~午後5時に開館(12月31日~2022年1月2日は休館)。南富良野町内ではほかにも、乙松家の墓地シーンや、志村けんの働く炭鉱シーンの一部なども撮影されました。