2020年(監督:福永壮志)
ロケ地:釧路・阿寒

映画館の暗闇で、久しぶりに心が震えた。ワンシーンごとにヒリヒリした痛みを感じ、場内が明るくなってもすぐに席を離れたくないような深い余韻に打たれた。北海道ロケの映画に注目してきた私にとって、2020年の暮れ、札幌・シアターキノで観た「アイヌモシリ」は、忘れられない1本になった。
主人公は、釧路・阿寒湖畔のアイヌコタンで暮らす14歳のカント(下倉幹人)。一年前に父・コウジ(結城幸司)を亡くし、アイヌ民芸品店を営む母・エミ(下倉絵美)と暮らす彼は、高校の進学相談で「この町を出られるなら何でもいい」と答えるほど、地元やアイヌの活動から心が離れていた。ある日カントは、父の友人・デボ(秋辺デボ)からキャンプに誘われる。たった一晩だが、森に入る時の挨拶の仕方や自然との向き合い方などアイヌの精神を教わり、濃密なひとときを過ごすカント。さらに、デボが森で秘かに育てている小熊のもとに案内され、世話を任されて喜んだものの、実はその小熊は「イオマンテ」(熊送りの儀式)復活のために飼育されていたものだった…。
「自分が生まれ育った北海道の先住民族であるアイヌについて何も知らないことにハッとし、恥ずかしく思った」ことが本作を作る発端だったと、福永壮志監督はパンフレットで語っている。それは2003年の渡米後、ネイティブアメリカンに興味を持った20代の頃だったそうだが、同世代の私が同じ思いに駆られたのは、恥ずかしながらここ数年のことである。本を読んだり、朝日カルチャーセンター札幌教室の講座に通ったりしてアイヌ民族の歴史と文化を知れば知るほど、和人の自分がふがいなかった。アイヌの思いを真正面から取り上げた劇映画が、このコラムで紹介した「森と湖のまつり」(1958年)「コタンの口笛」(59年)といった古い作品しか見当たらないことにも、どこか居心地の悪さを感じていた。そうしたモヤモヤが、本作を見ているうちにスーッと溶け、冒頭の状態でスクリーンに見入ったのだ。
本作の一番の魅力であり、また画期的だった点は、アイヌ役をアイヌ自身が演じたことだろう。なかでもエミ&カント母子の演技があまりにナチュラルで驚いていたら、実の親子だと後から知って納得(笑)。阿寒アイヌ工芸協同組合専務理事の秋辺デボさんや、オキ役で登場したトンコリ奏者・OKIさんら出演者のそれぞれが、アイヌ文化にまつわる多彩な活動に取り組み、知る人ぞ知る存在なだけに、担った役どころも絶妙で、物語に深みを与えていた。だからなおのこと、エミに「日本語が上手ですね」と声を掛ける観光客の無知な言葉や、イオマンテ計画を耳にした新聞記者(リリー・フランキー)に対するデボの態度が胸に突き刺ってしまう。
「アイヌモシリ」とは「人間の国」を意味し、「カムイモシリ(神の国)」と対をなす言葉だという。アイヌ民族が先住していたこの島に住む一人でも多くの人に、本作をぜひ観てもらいたい。

イラスト&文 新目七恵(あらため・ななえ)
ライター、ZINE「映画と握手」発行人。アイヌを題材にした短編ドキュメンタリーも話題作が続々と登場! お薦めは「アイヌの娘とアイヌじゃない父 アイヌ語復興への確執と葛藤」(山田裕一郎監督)「Future is MINE -アイヌ、私の声-」(富田大智監督)で、両作品ともYoutubeなどで公開中。今を生きるアイヌの姿を見つめながら、現代の親子関係や女性像をも繊細に切り取っています。