1996年(監督:山田洋次 )
ロケ地:雨竜、旭川、層雲峡(上川)

エベレスト登頂に日本人として初めて成功した冒険家(1986年「植村直己物語」)、江戸時代にロシアに流れ着き、凍傷で片足を失う男(1992年「おろしや国酔夢譚」)、愛犬と車で旅に出たホームレス(2011年「星守る犬」)……。昨年亡くなった西田敏行さんは、どんな役でも自分のモノにし、人間味あふれる芝居で魅了した。冒頭に挙げた3作品どれも北海道ロケがあるけれど、今回は、北海道雨竜高等養護学校をモデルとし、現地でロケも行われた主演映画「学校Ⅱ」に光を当てたい。
西田さんの役は、「リュー先生」と慕われるベテラン教員・青山竜平。物語は雪の残る3学期、リュー先生が、買い物に出たはずの3年生・高志(吉岡秀隆)が寮に戻らないことを耳にする場面から始まる。しかも、介助が必要な同級生・佑矢(神戸浩)も一緒だという。不安な面持ちで同僚の小林先生(永瀬正敏)と2人を捜すリュー先生は、この3年間を思い返す――。
入学時、前の学校での辛い経験から、心も口も閉ざしていた高志。一方、佑矢は学校中で暴れまわり、新任の小林先生を振り回していた。そんな2人を信じ、励ましてきたリュー先生は、あることをきっかけに大きく成長し、支え合うようになった2人のことを頼もしく感じていた。

回想で印象的なのは、「風になりたい」の歌唱シーンだ。すっかり打ち解けた高志や佑矢のはしゃいだ顔。それを満足そうに見つめる、リュー先生こと西田さんの柔らかな歌声。子どもを急き立てたり、叱ったりすることよりも、こうして肩を並べ、楽しさを共有することが教育でも、子育てでも大切ではないかと気づかされる。
すると再び、疑問が湧く。高志はなぜ、失踪したのか。なぜ、学校に帰ろうとしないのか……。
卒業を控えた彼の胸の内を想像し、厳しい現実に打ちのめされそうになった時、驚きの出来事が起こる。真っ白な雪原に、ふわりと浮かぶ熱気球! 半泣きだった高志と佑矢がみるみるうちに表情を変え、幸福感に包まれて2人だけの〝大冒険〟を終えたことを見届けると、祈りにも似た喜びがこみ上げた。
さて、主演の西田さん演じるリュー先生は、理想の教師像を体現する役どころ。生徒を温かく見守る姿は尊いけれど、日ごろ子育てに七転八起する私には少しまぶしい。ところが、実は彼自身この学校にたどり着くまで苦労し、今も内心悩み続けていることが分かる。さらに、別れた妻のもとにいる一人娘(若き浜崎あゆみ!)の相談にうまく乗れず、悶々とする父親の顔を見せることもあり、どこかホッとした。
話は戻るけれど、高志たちを見つけたリュー先生は、雪に何度も足をとられ、顔中を雪まみれにしながら安堵する。この時、一緒に観ていた小5の息子は思わず吹き出していた。アドリブが得意で、いつもユーモアを忘れない西田さんの演技は、こうしてこれからも、たくさんの人の心をつかんでゆくのだろう。

文&イラスト 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。「学校Ⅱ」で高志たちがまず向かったのは、旭川で行われた人気歌手のコンサート。それは、安室奈美恵 with SUPER MONKEY'S! 当時の熱気が蘇ります。また、私の愛する西田敏行ドラマの一つは「池中玄太80キロ」。DVDを見直したところ、なんと第1話の重要な舞台は釧路! こちらも、北海道ゆかりの名作として語り継いでいきたいです。