2018年(監督:前田哲)
ロケ地:札幌、美瑛

バナナは夜食にぴったりだけれど、眠たい深夜、食べたいと人に頼まれたらどうだろう。相手は重度の身体障害者で、自分はボランティア(映画の中では主人公に「ボラ」と呼ばれる)の介助者だ。希望を叶えるという場合、「もう1本食べたいから買ってきて」と言われたら? 反対に、断るのはアリだろうか?「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」は、のっけからそんな介護・福祉の現場にまつわる問いを突き付けられる映画である。
とはいえ、変に身構える必要はないのでご安心を。なにしろ、主人公の筋ジストロフィー患者・鹿野(大泉洋)がめっぽう面白い!「わがまま放題」「自由すぎる性格」という宣伝文句通り、不自由な体ゆえの要求を次々出してはボラを振り回す様子は困りものだけれど、演じる大泉本人のおしゃべりなキャラクターも相まって(?)愛嬌たっぷり、憎めないのだ。モデルは、実際に札幌でボラを集めて自立生活を送った鹿野靖明さん。2002年42歳で亡くなるまでの2年半、彼を取材した渡辺一史氏による傑作ノンフィクション本「こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち」が原作だ。
難病を扱う映画にありがちな湿っぽい涙が苦手な私にとって、本作が心地良かったのは、恋人の医学生ボラ・田中(三浦春馬)目当てに新人ボラとなった美咲(高畑充希)の存在が大きい。障害者福祉に興味がない分、彼女の態度はストレート。時に横柄な鹿野に「何様?」とキレたのはヒヤリとしたけれど、率直な彼女だからこそ「普通の生活をしたい」という鹿野の思いを徐々に受け止め、距離を縮めていく過程には心ときめいた。前田哲監督にインタビューする機会を得てそう伝えたら「この映画は大泉、高畑、三浦3人の青春ドラマ。そのうち1人がたまたま障害を持っているだけなんです」と答えてくれて納得。逆に、彼女の言葉にヒヤリとした自分こそ、「障害者だから優しくしないと…」という“壁”を作っていたのかもしれない。
脇役の萩原聖人らベテランボラも自然体で素敵だったが、原作を読むと実際のボラたちの事情はもっと複雑で、鹿野さんとの関係も多様だった。当たり前だが、生身の人付き合いは面倒で難しい。でも、だから触れ合えば温かいし、分かり合えば嬉しい。それは障害の有無に関わらず、生きる上で誰もがよりどころとする感覚だと思う。
八剣山果樹園や本郷通り商店街など、鹿野さんが暮らした札幌の街が丸ごと舞台になったことも感慨深い。とりわけ、メインロケ地となった札幌の団地住宅と美瑛のペンションは、なんと、どちらも本当に鹿野さんが使った部屋がタイミング良く空き、ロケできたそう。「有名になればボラが集まる」と話していた鹿野さんだったから、元気なうちに映画ができたらと空想するのは勝手すぎるだろうか。
障害者自立支援法が施行されて14年。知り合いで鹿野さんのようにボラに囲まれ一人暮らしを楽しむ女性がいる。全盲の知人は今年、世界一周旅行に挑戦するという。豊かに生きる彼らの背中から、私は元気をもらっている。
イラスト&文 新目七恵(あらため・ななえ)
ライター、ZINE「映画と握手」発行人。前田哲監督×大泉洋のタッグは函館ロケ「パコダテ人」(2002年)以来。しっぽの生えた女子高生(宮崎あおい)の騒動をコミカルに描くファンタジーですが、異なる他者をどう認めるかというテーマは「こんな夜更けにバナナかよ」と共通するかも?