2012年(監督:阪本順治)
ロケ地:礼文、利尻、利尻富士、稚内、豊富、札幌


実に124本目の出演作という主演映画「てっぺんの向こうにあなたがいる」が公開中の吉永小百合。今作の阪本順治監督と彼女が初めてタッグを組んだ作品が、「北のカナリアたち」だ。
舞台は北海道の小さな離島。ある出来事をきっかけに小学校教師を辞め、島を去ったはる(吉永小百合)は、それから20年後、当時の教え子・信人(森山未來)が事件を起こして行方不明と知り、同級生(満島ひかり、勝地涼、宮﨑あおい、小池栄子、松田龍平)に会いに行く。豊富・サロベツ湿原センター、札幌の貿易会社・幼稚園、稚内の造船所、島の交番。道内各地で働く彼らと再会し、20年間言えずにいた思いを打ち明けるうち、ある真実が明らかになる……。
吉永主演×北海道ロケシリーズ〝北の三部作〟第2弾。第1弾「北の零年」(2005年、行定勲監督)が時代劇だったのに対し、今回は人気作家・湊かなえの短編小説「二十年後の宿題」(幻冬舎文庫『往復書簡』に収録)を原案にした現代劇。子役6人は約3千100人の中から選ばれた精鋭で、20年後の彼らを実力派俳優が演じるといった話題に胸が躍った。いざ封切りになると、島に赴任した女性教師が子どもたちと歌を通じて交流する場面には「二十四の瞳」(1954年、主演は函館出身の高峰秀子!)などの古き日本映画の香りが漂い、徐々に明かされる真相と意外な結末に現代ミステリーのセンスを感じた。
大人の群像劇に厚みをもたせたのは、礼文島と利尻島のダイナミックな情景だろう。撮影は2011~12年の冬・夏2回、計約3カ月間行われたそう。特に、荒涼とした冬の海は、登場人物の孤独を浮き彫りにするようで胸を打った。いつかロケ地に行ってみたい。そう思いながら、月日が過ぎてしまった。
そこで今回、学校校舎のロケセットとして礼文島に建てられ、現在は写真や衣装を展示公開する「北のカナリアパーク」に連絡を取ってみた。ここ数年の入園者数は年間約4~5万人。敷地の一角にある喫茶店「カナリアカフェ」の運営に携わる本杉麻奈さん(23)は「お客様の多くは島内のトレッキングを楽しむ方ですが、2~3割は吉永小百合さんのファンという印象です」と電話口で教えてくれた。ちなみに彼女は、昨春着任した地域おこし協力隊。「晴天の日ばかりではないですが、いつも空気が澄み、近くに海がある礼文島の風景に毎日感動しています」という言葉に、旅情をますますかきたてられた。
もう一つのロケ地・稚内では、映画公開直前となる2012年10月に「わっかない映画祭」が開催。吉永主演映画6本のオールナイト上映と、阪本監督と遠別出身で故人の映画評論家・品田雄吉さんの対談という豪華な内容で、私は札幌からバスで向かい、早朝から「長崎ぶらぶら節」(2000年)「夢千代日記」(1985年)などの名作をぶっ続けで観る体験にクラクラした覚えがある。映画祭はその後、「わっかない白夜映画祭」と名を変えて継続。市民でつくるNPO法人文化活動振興会が主催し、2025年に11回目を数えた。稚内と〝北の三部作〟との縁は続き、第3弾「北の桜守」(2018年、滝田洋二郎監督)の撮影も行われ、オープンセットを保存した「北の桜守パーク」の管理も、このNPOが担っているという。
「北のカナリアパーク」も「北の桜守パーク」も、冬季は休館し、雪解け後の春に営業を再開する。雄大な利尻山を望むあの絶景、エゾカンゾウが群生するあの花畑に、今年こそは行けるだろうか。
イラスト&文 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。札幌の映画館「サツゲキ」が3月閉館というニュースを悲痛な思いで受け止めています。ホラー・アクション何でもありのカルト的ラインアップが楽しめる貴重な場であり、AFC上映会や本誌プレミアムプレス配架でもお世話になりました。100年の歴史を誇る映画文化の灯を、どうか絶やさないで欲しい。切に願っています。
