2006年(監督:佐藤祐市)
ロケ地:北見市常呂

言うだけ野暮だと思うけれど、新型コロナウイルス感染症の流行がなければ、今頃は東京五輪の興奮冷めやらぬ時期だっただろう。オリンピックにそれほど関心のない私だが、アスリートを見るのは好きだ。特に、勝負するときの表情にグッとくる。
映画「シムソンズ」は、2002年のソルトレークシティ冬季五輪に出場した常呂(現北見市)のカーリング女子日本代表チーム「シムソンズ」がモデル。後に〝カーリング娘〟として日本を席捲する彼女たちだが、当時そこまで注目されてはいなかった。それがなぜ映画になったのかと言えば、映像プロデューサーの森谷雄氏が「カーリングというマイナーだが奥深いスポーツに向ける彼女たちのキラキラとした姿に釘付けに」なったのがきっかけだったと、自著の小説版「シムソンズ」のあとがきで明かしている。魅力的なアスリートは、時に創作意欲をもかき立てるものらしい。
主人公は、憧れの選手・真人(田中圭)に誘われ、カーリングを始めることにした女子高生・和子(加藤ローサ)。受験生の史江(星井七瀬)と農場の娘・菜摘(高橋真唯)、真人の幼なじみで経験者の美希(藤井美菜)と即席チームを結成した彼女だが、コーチとして現れたのは、冴えない漁師の大宮(大泉洋)。しかも、軽い気持ちで挑んだ初戦は惨めなものだった…。
チーム名以外はほぼフィクション。とはいえ、カーリングに青春を懸けていく彼女たちに注目するテレビ局のディレクター(松重豊)は、本作を企画した森谷氏とどこか重なる。また、「伝説の選手」として劇中に登場する石神コーチ(夏八木勲)は、常呂カーリング協会初代会長の故・小栗祐治氏がモデルだとか。小栗氏はカーリングを地元で広め、本橋麻里選手の恩師としても知られる人物。さらに、試合シーンには町民約1000人がエキストラ協力したそう。多くのカーリング選手を育ててきた街の熱いスピリットが、映画の隅々に宿っている。
高田延彦が店主を演じた「しゃべりたい」も実在する喫茶店だ。映画で和子が味わう「流氷ソーダ」は今も昔も人気メニュー。店を切り盛りしていた宇佐美良昭さんは2009年に亡くなり、今は妻の美保子さんが店主を務める。お電話したところ、「撮影の日は丸一日営業を休んでカウンターに隠れていました(笑)。こんな風に映画って出来るんだと知って楽しかったですよ」と、15年も前のロケをまるで昨日のことのように教えてくれた。ちなみに、電話した日は偶然にも店の40周年記念日。地元客にも、映画ファンにも愛される名物店としてこれからも長く続けてほしい。
実際のチーム「シムソンズ」は解散したものの、メンバーの一部はカーリング競技に今も携わる。そして2018年の平昌冬季五輪では、「太陽の常呂っ子」という意味を込めたチーム「ロコ・ソラーレ」がカーリング史上初の銅メダルを獲得! 北海道が誇る“カーリングの聖地”の原点といえる輝きは、本作にもしっかりと刻まれている。
ライター、ZINE「映画と握手」発行人。「シムソンズ」主演の加藤ローサは、続いて札幌ロケ「スマイル 聖夜の奇跡」(陣内孝則監督、2007年)に出演。今度はフィギュアスケートのコーチ役でした。一方、森谷雄プロデューサーはその後、大泉洋主演の北海道ロケシリーズ「しあわせのパン」(2012年)「ぶどうのなみだ」(14年)「そらのレストラン」(19年)にも携わっています。
