2023(監督:三浦大輔)
ロケ地:苫小牧

寒さが身に沁みると、人恋しくなるのはなぜだろう。クリスマスや大晦日は、大切な人と過ごしたいもの。「そして僕は途方に暮れる」は11月後半から年明けの物語。ところが、主人公・菅原裕一(藤ヶ谷太輔)は恋人(前田敦子)を裏切り、親友(中尾明慶)や先輩、家族のもとに転がり込むも、バツが悪くなるとすぐ逃げ出す。年末に、人間関係を断ち切っていく若者の、どん詰まりに見える逃避行を描く。
そもそも本作は、2018年に初演された演劇作品の映画化。原作舞台を書き下ろした三浦大輔自身が、映画版も監督した。主演の藤ヶ谷、前田、中尾も続投。舞台版はどんなに魅力的だったろうと思うけれど、映画版の見どころの一つは、ロードムービーとして実景をふんだんに盛り込んだことだろう。
東京に行き場を無くした裕一が向かったのは、母親(原田美枝子)のいる北海道・苫小牧。帰省を喜ぶ母だったが、少し気まずくなると、彼はまたもやとんずら(苦笑)。が、ここからが急展開。なんと、家族を捨てた父親(豊川悦司!)と再会するのだ。「家に来るか?」という誘いを受け、スマホの電源を切った裕一。いよいよ孤独になった彼の行きつく先は?

正直言って、前半は主人公の言動にイライラするばかり。だが、母親役・原田の怪演にのけぞり、父親役・豊川の存在感が光る後半から、ぐいぐい引き込まれた。さらに目を引いたのは、ロケ地・苫小牧の風景が、物語によく溶け込んでいたこと。苫小牧西港フェリーターミナルや糸井東大通の陸橋、ぷらっとみなと市場といった各所が、温か過ぎず、冷た過ぎもせず、故郷の空気感を醸し出していた。
実は、苫小牧は三浦監督の出身地。「強い思いがあったかと言われると実はそういうことでもなくて。さんざん見てきた景色だったから切り撮りやすかったというのが、正直なところなんです(笑)」という監督のコメントが公式サイトにあるけれど、思い入れが一切ないといったらウソだろう。たとえば、裕一が父親と立ち寄る映画館シネマ・トーラスは、監督が苫小牧時代に通った場所だという。
10月初め、そのシネマ・トーラスを訪れた。代表の堀岡勇さんは「父親役があのトヨエツ(豊川悦司)とは思わなかったから、びっくりしたよ!」と回想。撮影は2021年4月の休館日に行われ、堀岡さんも上映機器を操作したり、ロビーを掃除するスタッフ役で一瞬出演したりして協力したという。
撮影の思い出として、堀岡さんはキャストや監督らスタッフと撮った集合写真を見せてくれた。窓の「シネマ・トーラス」という文字は、美術スタッフが装飾したものをそのまま残してあるという。
「シネマ・トーラスのシーンは思った以上に重要で、インパクトがありました」と堀岡さんが話す通り、映画というモチーフが意外なラストに響く。ネタバレになるのでこれ以上は言えないが、私も本作をシネマ・トーラスで観て、製紙工場の煙突そびえる苫小牧の街で余韻に浸りたかった!

文&イラスト 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。苫小牧市の公式サイトには「そして僕は途方に暮れる」の特設ページがあり、ロケ地情報も詳しく紹介されています。余談ですが、三浦大輔さんが主宰する劇団ポツドールの戯曲を映画化した「恋の渦」(2013年、大根仁監督)を、今はなき、懐かしき札幌のミニシアター・蠍座で観ました