2016年(監督:白石和彌)
ロケ地:札幌

実録犯罪映画は、お化け屋敷に似ている。怖いもの見たさで観始めるものの、やっぱり途中で目をつぶりたくなり、終わった時にはホッとする。それなら観なければいいのではと言われそうだけれど、時間が経つと、あの刺激をまた味わいたくなるのだ。とりわけ、強烈に面白い作品に出会ってしまうと。私にとってそんな1本が、「日本で一番悪い奴ら」だ。
主人公は、柔道の腕を見込まれ、北海道警察に勧誘された諸星(綾野剛)。期待通りに都道府県警対抗の柔道大会で活躍したものの、本業の捜査現場では役に立たず、同僚刑事(青木崇高)から邪険にされる。そんな彼に声を掛けたのは、先輩刑事・村井(ピエール瀧)。「犯人(ホシ)を挙げて点数を稼がなければ、俺たちは認められない。そのためには、協力者=エス(※スパイのSを取った隠語)を作れ」。その言葉を信じ、札幌・ススキノ中に名刺をばら撒く諸星。やがて暴力団幹部・黒岩(中村獅童)ら有力なSを得て、覚せい剤や拳銃の摘発に成功! 華々しく表彰されるのだが……。
刑事になった理由を「公共の安全を守るためです!」と答える真面目な青年が、正義のため裏社会に飛び込み、結局は〝闇落ち〟。ミイラ取りがミイラになる展開には苦笑いだが、実話がベースだと知ると、笑うに笑えない。原作は、元道警警部・稲葉圭昭氏の自伝『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』(講談社文庫)。2002年に覚せい剤の使用と営利目的の所持、銃刀法違反の罪に問われ、懲役9年の実刑判決を受けた稲葉氏。公判では、道警のやらせ捜査やおとり捜査、銃刀法違反偽証など驚がくの実態が明らかになり、裏金事件が発覚するきっかけにもなった。
原作本を読むと、数々の違法捜査が平然とまかり通る映画の内容が、決して誇張ではないことが分かる。とはいえ、本作の魅力は、日本警察史上最大のトンデモナイ不祥事を、不謹慎にも笑いがこみ上げるエンタメに昇華した点ではないか。
たとえば、後日拳銃200丁を摘発する見返りとして、覚せい剤20キロの密輸を見逃すという、ぶっ飛んだ計画の会議シーン。「成功すれば全国新記録ですよ!」と発破をかける諸星(綾野)に対し、まんざらでもない表情の上司(みのすけ)や税関職員(6月に逝去した札幌の名優・斎藤歩が演じている)。その傍らで、あぜんとする新人刑事(中村倫也)のおかしさといったら! ちなみに、この企みは予想外の事態となるのだが、これは観てのお楽しみとしたい。
人間の暗部をじっくり見つめる社会派ドラマもいいけれど、パワフルな娯楽作で腐敗した組織を笑い飛ばすのも、映画の健全な力という気がする。札幌ロケは一部で、多くのシーンは三重県など道外で撮影されたそうだが、うれしいのは、ゾクゾクするような快作映画を撮った白石和彌監督が、北海道は旭川出身だということ。ほかの作品も反骨精神たっぷりの力作揃いで、いつか、もし、お会いできた際には、同時代を生きる映画ファンとしてお礼を言いたいと思っている。

ライター、ZINE「映画と握手」発行人。白石和彌監督の「孤狼の血」(2018年)に登場する悪徳警官・大上(役所広司)は、「日本で一番悪い奴ら」の主人公モデル・稲葉圭昭氏を参考にしていると、両作の脚本を担当した池上純哉さんが『キネマ旬報』(2021年9月上旬号)で明かしていました。そういえば、あの強烈な悪っぷり、それでいて憎み切れない人間的魅力……納得です。白石作品、私は草彅剛主演の時代劇「碁盤斬り」(24年)も大好きです!