2009年(監督:沖田修一)
ロケ地:網走

いつか南極に行きたい。無謀と笑われそうな夢を、わりと本気で抱いている。
きっかけは4年前、南極観測隊の調理担当となった西村(堺雅人)の日々を描くコメディー映画「南極料理人」を観たこと。北海道在住の原作者・西村淳さんの爆笑エッセイや南極観測に関する本を読むうち、南極大陸の壮大な風景や神秘性にすっかり魅せられてしまったのだ。そこでまず私がチャレンジしたこと。それはリアル・南極料理人。つまり、映画に出てくる料理の再現である。
たとえば、具沢山のおにぎりと熱々の豚汁。炊飯器で作る炊き込みチャーハン。生瀬勝久演じる雪氷学者・本(もと)さんの誕生会を盛り上げたローストビーフは、さすがに劇中の豪快な方法(ご覧になっていない方はイラストからご想像ください)はできないので、撮影を支えたフードスタイリストの飯島奈美さん・榑谷孝子さんによるレシピ本を参考に湯せん調理した。手打ち麺がボソボソになったラーメンを除き、どれもそれなりに家族を喜ばせた記憶があるけれど、何といっても強烈だったのは「伊勢えび」で作る"エビフライ"だ。そもそも伊勢えびが手に入らず、本場・三重県南伊勢からお取り寄せ。硬い殻に四苦八苦しながら下準備し、こんがり揚げたてを頬張ると、えびみそを混ぜた濃厚タルタルソースと相まって、分厚い身がもう絶品だった。
そんな私にとって、函館の知人・金森晶作さんが第60次南極観測隊に選ばれたことは2018年のビッグニュースだった。出発前、映画「南極料理人」を紹介する自作の冊子を送ったところ、なんと昭和基地からオーロラの絵葉書が届いて驚くやら嬉しいやら。2020年3月に帰国され、現在はとかち鹿追ジオパークの専門員として働く彼に今回メールしたところ、なんと本作を昭和基地で鑑賞したそう!「映画の舞台は昭和基地より1000キロ内陸のドームふじ基地。今はインターネットが通じ、水も我慢せず使えるので、大変だったんだなぁと生活者視点で観ました」と感想を教えてくれた。
せっかくなので“南極の忘れられない味”も聞いてみたら、「シンガポール伝統のプラナカン料理」と意外な答え。「越冬生活中盤、シンガポールにいた友人から教わり、食べたこともないのにリクエスト。準備していなかったと思いますが、バナナの葉にのったエスニック料理を数品作ってくれて美味しかったです」。さらに寿司やケーキなどにまつわる思い出を伺うと、映画さながら調理担当者の奮闘が、観測隊員の過酷な日常を支え、彩ったことが伝わってきた。(ちなみに、金森さんの担当は大気や雪氷のモニタリング観測。映画に登場した「本さん」や「平さん」のモデルとなった方々とも交流されたそうです)
家族や恋人と切り離された南極という特殊な場所が、コロナ禍の今見ると妙に身近に思えるから切ない。どんなにさみしくても辛くても、美味しい料理とユーモアが人を元気にすることを、映画は教えてくれる。今年一年、できるだけ笑って日々の食卓を楽しみたい。
イラスト&文 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。なかなか映画館に行けない2020年でしたが、シアターキノで観た「アイヌモシリ」と「燃ゆる女の肖像」は忘れられない傑作!一方、オンライン開催の「イタリア映画祭2020」でコメディー「私が神」、「第25回ながおか映画祭」でドキュメンタリー「タゴール・ソングス」と出会い、オンライン配信の可能性も感じました。