1987年(監督:大森一樹)
ロケ地:札幌、小樽

「さよなら」という言葉を、今まで何度口にしただろう。最近めったに使わなくなったのは、「もう会えないかも」という別れのニュアンスが、日常では少し大げさに感じるからかもしれない。「『さよなら』の女たち」は、アイドル時代の斉藤由貴さんが北海道に住む大学生ヒロインを演じた主演映画。2022年11月、70歳でこの世を去った大森一樹監督とコンビを組んだ人気シリーズ第3弾である。
札幌で情報誌のアルバイトをしていた郁子(斉藤)は、あてにしていた正社員採用の話がなくなり、途方に暮れてしまう。その上、小樽で教師をしていた父は「東京で歌手になる」と言い出し、母は「イルカの調教師を目指す」と実家を売ってしまった。困惑した彼女は、親友・麻理(古村比呂)に会いに兵庫の宝塚へ。再会した麻理を通じて不思議な魅力を持つ年上の淑恵(雪村いづみ)と知り合った郁子は、なりゆきから神戸の洋館で3人の共同生活をすることになる。
「〇〇の女たち」というタイトルから、同じく斉藤さん主演「恋する女たち」(86年、大森監督)を連想する方もいるのでは。それもそのはず。そのヒットを受けて作られた「トットチャンネル」(87年、大森監督)に続く本作は、「恋する~」の原作者・氷室冴子さんも納得の上でタイトルが決まったそう。原作小説も氷室さんが手掛ける予定だったが、執筆が進まないうちに映画会社の都合で制作が始まってしまい、大森監督が大慌てで脚本を書き下ろすことになったという裏話が、大森監督の著書『映画物語』(1989年、筑摩書房)で明かされている。
氷室さんといえば、1980~90年代に少女向けのコバルト文庫(集英社)で活躍した岩見沢出身の作家。没後10年となる2018年からは「氷室冴子青春文学賞」が創設され、功績は今も語り継がれているが、私は未読だった。この機会に「恋する~」の原作を開いたところ、舞台は私の生まれ故郷でもある岩見沢! なじみある土地で繰り広げられる高校生の青春に一気に引き込まれた。こんな素敵な物語を、なぜ地元・岩見沢で撮影しなかったのか(映画版の舞台は石川・金沢)というと、斉藤さんの劇場デビュー作「雪の断章―情熱―」(85年、相米慎二監督)にも、大森監督の前作「テイク・イット・イージー」(86年)にも北海道が登場したことから、ロケ地が変更されたと北海道の地元紙にあった。
ということは、本作は氷室さん原作×北海道ロケを実現するチャンスだったはず。結局、大森監督オリジナルとなった本作も、札幌駅のオープニング(斉藤さんのコメディエンヌぶりが炸裂)から、小樽運河やおたる水族館で家族と会話するシーンなど見どころはあるけれど、氷室版「『さよなら』の女たち」も見てみたかったと、今更ながら思う。
「恋する~」は女子高生3人のドラマだったが、今回登場するのは卒業間近の大学生と宝塚ファンの級友、そして経済的に自立した大人の女性だ。歳も立場も異なる3人に、氷室さんはどんな〝さよなら〟を用意しただろう。多感な女性像を、軽やかに、生き生きと描く彼女のことだから、きっと愉快な群像劇になったのではないだろうか。
文&イラスト 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。故・大森一樹監督とは2011年の函館港イルミナシオン映画祭でお会いし、「一面の荒野など北海道は映画的な土地。この空間を使って映画らしい作品をまた撮りたい」とおっしゃっていました。合掌。
