2003年(監督:伊藤好一)
ロケ地:むかわ町穂別

黄金色の稲穂のじゅうたんが、風に揺れていた。9月中旬、家族でぶどう狩りをした帰り道、後志管内赤井川村で目にした光景だ。今頃は刈り取られ、もう新米として店頭に並んでいるだろうか。不自由なことの多かった今年は、変わらぬ秋の実りがことさら嬉しい。
「田んぼdeミュージカル」は、道内有数の米どころ・胆振管内むかわ町の穂別(公開時は穂別町)で作られたご当地映画だ。「ご当地」と銘打つ映画は数あれど、本作はロケだけでなく、企画・撮影・編集・音楽・キャストなど製作のすべてを地元市民が担当。それも、今まで映画作りに関わったことのないシニア世代(出演者の平均年齢74歳!)が中心となった珍しい作品として大きな注目を集めた。
発端は2001年、映画監督の崔洋一さんを町に招いた講演会。「小学生が卒業記念に映画を作った」と聞いた町民が「わしらでもつくれるべか」と持ち掛け、「できるできる!」という崔監督の後押しで実行委員会が発足。翌年の秋、町内の田んぼを舞台に、本当に映画撮影を実現させたのである。
タイトル通りのミュージカルムービーだが、内容はラブロマンスでもショービジネスでもなく、稲作農家の一代記。貧困農家に生まれた青年・源次郎(梅藤和男)が、復員後に千代(棚橋幸子)と結ばれ、米作りに邁進する「過去」と、減反政策の中、水田を潰してメロンに転作しようとする息子と暮らす「現在」を描く。演技はご想像の通り(といっては失礼かもしれないが)つたないし、ぎこちない。けれど、ぐいぐい引き込まれるのは、まるで自分の身内のようなおじいちゃんやおばあちゃんが歌い、踊る姿が楽しいから。それも単に微笑ましいのではなく、戦争や国策に翻弄された怒りと悲しみを、笑いで包み込もうとするたくましさを感じるからだろう。天皇陛下献穀米に選ばれた生産者が行う「刈り取り清め払い式」や、戦後まもない頃の結婚式なども丁寧に再現され、町の歩みを伝えている。
評判になった本作を皮切りに、「田んぼdeファッションショー」(2005年)「いい爺いライダー」(08年)「赤い夕陽の爺yulie(ジュリー)」(11年)「ここはわしらの天国だ」(16年)と続いた映画作りは、今や地域のライフワークに。どれも戦争体験や市町村合併、故郷の在り方など、大真面目なテーマをミュージカル仕立てで描くスタンスは変わらず、暴走族や西部劇といった過激な要素まで取り入れていくのが痛快だ。
ところが2018年、胆振東部地震で被災。昨年は全5作の脚本を担当した斉藤征義さんが亡くなり、6作目の制作は中断しているという。そうした中、今年4月、詩人で宮沢賢治研究家でもあった斉藤さんの足跡を伝える資料館「斉藤征義の宮沢賢治と詩の世界館」が苫小牧に誕生した。斉藤さんをはじめ、穂別の方々が続けてこられた大いなる挑戦は、たくさんの“芽”を蒔いたことだろう。新たな実りを迎える日はきっとくる。
イラスト&文 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。故・斉藤征義さんとは函館港イルミナシオン映画祭でお会いし、茶目っ気ある笑顔と穏やかな人柄が心に残っています。彼のバイタリティーあふれる多彩な活動資料に触れられる「斉藤征義の宮沢賢治と詩の世界館」(苫小牧市王子町1丁目6-11 グリーンカフェ1階、10:00~17:00、定休日月・火曜日)を訪れる日を楽しみにしています。
