2011年(監督:三木孝浩)
ロケ地:稚内

稚内生まれのロックバンド、Galileo Galilei(ガリレオ・ガリレイ)をご存じだろうか。2010年、10代の若さでメジャーデビューすると、CMソングやアニメ主題歌で一躍人気となった道産子アーティスト。本作は、彼らが初めて作ったオリジナル曲「管制塔」にインスピレーションを受けて企画された約70分の青春映画だ。
ロケはほぼ全編、バンドの故郷・稚内で行われたが、ストーリーはフィクション。学校に居場所のない中学生の駈(山﨑賢人)が、転校生のミィ(橋本愛)と出会い、音楽を通して心を通わすようになる。やがて2人はバンドを組み、オーディション目指して曲作りに挑戦。ところが、ようやく曲が完成した時、ミィは家の事情で不登校となり、心を閉じてしまう。自分の無力さに打ちのめされた駈は、衝動的にギターを弾き語る。本作が映画初出演という初々しい山﨑が熱唱する歌として、「管制塔」が登場する。
馴染みあるガリレオ・ガリレイのメロディーに、胸がアツくなるクライマックス! とはいえ、J-POPにまるっきり疎い私は、本作を観るまでガリレオ・ガリレイ自体を存じ上げず、歌も初めて耳にしたことを白状したい。そもそも稚内で先行公開され、東京・大阪で2週間だけ限定上映されたという本作は、海外の映画祭で評価を受けたものの、今や目にする機会はほとんどない幻の作品。バンドのファンではない私がなぜ注目したかといえば、尊敬する映画エッセイストが、本作の風景描写を特筆したのを見つけたから。どうしても観てみたくなり、数年前にDVDを取り寄せたのだった。
宗谷丘陵に並ぶ巨大な白い風車。半アーチ型の屋根と円柱が特徴の北防波堤ドーム。そして、「管制塔」のモチーフとなった開基百年記念塔。映画では確かに、稚内特有の景色が、時に寒々しく、時に淡く色づきながら、男子中学生の心象と重ねて描かれていく。私が稚内を訪れたのは、もう10年も前のことだが、強烈な海風に〝最北端〟を実感した。けれど、生まれ育った者にはそれが日常なのだ。劇中に映し出されるどんよりした曇り空や殺風景な雪原を見て育った若者が、実際、日本中の同世代の心を捉える曲を紡ぎ出す豊かな感性を育んだことを思うと、もう一度、あの街を歩いてみたくなる。
蛇足だが、私が気に入ったのは、ヒロイン・橋本のムーミン好きという設定。山﨑に(ムーミンに登場する人気キャラクターの本名)「スヌスムムリク」とあだ名をつける辺り、マニアックな愛好者とみた。とすれば、原作本を手にしたかもしれない。気まぐれに振る舞いながらも、孤独を抱える彼女にとって、あの哲学的寓話が心の癒しだったのでは…と、想像を広げたくなる。私のお薦めは、冬眠からうっかり目覚めたムーミンが初めて〝冬〟に触れる『ムーミン谷の冬』。今まで嫌なものでしかなかった寒さが、一輪の花をたくましく成長させることを理解する展開に深く共感。映画のラスト、遠いどこかの街角で、ラジオから流れる「管制塔」を聴く橋本の胸には、稚内の冬景色が浮かんだはず。厳しい寒さをくぐり抜けた先には、ちゃんと春が待っている。そんな大切なことを、彼女ならきっと知っていると信じたい。

イラスト&文 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。三木孝浩監督は本作の後も、釧路ロケ「僕等がいた」(2012)、札幌が舞台の原作漫画を実写化した「青空エール」(2016)など、北海道ゆかりの恋愛青春映画を次々と手掛けられました。なお、ガリレオ・ガリレイは2016年に活動終了し、現在はBBHFとして音楽活動を続けています!