1995年(監督:岩井俊二)
ロケ地:小樽

メールやSNSが当たり前の今だからこそ、直筆の手紙は嬉しい。それがたとえ、不格好な文字やつたない文面だったとしても。映画「Love Letter」は、1通の手紙から始まるちょっと変わったラブストーリー。公開当時はポケベルが普及し、PHSサービスが始まった頃。まだ手紙は身近なものだったけれど、この物語が特殊なのは、手紙の送り先があるはずのない住所=天国だったことである。
雪山で遭難した婚約者・藤井樹の三回忌を迎えた渡辺博子(中山美穂)は、彼が少年時代を過ごしたという北海道・小樽の住所に手紙を出す。そこは道路となり、誰も住んでいない場所だと聞いたからだ。ところが、ワープロで打った返事がくる。差出人はなんと、「藤井樹」! 奇妙な文通の末、彼と同姓同名の、中学で同級生だったという女性の藤井樹(中山美穂の2役)に届いていたことを知る博子。さらに文通を続け、彼女の知らない思い出をたどるうち、秘められた彼の想いが明らかになる…。
回想シーンに登場する中学生のダブル藤井樹コンビ(酒井美紀・柏原崇)の、なんと不器用で可愛いこと。「名前が同じ」というだけでからかわれ、時に泣いてしまう少女・樹ちゃんは、思春期をとっくに過ぎた私には歯がゆいけれど(笑)、その初々しさは私を何度でもノスタルジックな青春世界に引き戻してくれる。キュートなエピソードの中でも好きなのは、喪中の樹ちゃん宅にふいに藤井少年が訪ねてくる後半のシーン。転校することになった彼だが、別れも言えずに本を預けて帰ってしまう。不思議そうに笑う彼女を眩しそうに見つめるだけで。その言葉足らずな行動が、なんとももどかしくて切ないのだ。
とはいえ大人になったって、本当に伝えたいことはなかなか言葉にできないもの。博子が最初の手紙に書き、クライマックスでは山に向かって叫ぶ「お元気ですか。私は元気です」もそうだ。死者に送るにはあまりにそっけないこの言葉の奥に、どれだけの思いが込められているだろう。亡き親友の恋人・博子に思いを寄せる秋葉(豊川悦司)や山小屋の梶親父(塩見三省)、息子を亡くした母親(加賀まりこ)も同じで、明るく笑う彼らがそれぞれ抱えるものを思うとき、涙がこぼれそうになる。
彼らの喪失感をファンタジックに包むのは、海と雪、ガラスで彩られた小樽の街並みだ。旧寿原邸や旧日本郵船株式会社小樽支店(※2022年3月まで保存修理工事中)、船見坂など市内各所が登場するのが見どころだが、とりわけ人気の高かった「小樽の藤井樹の家」こと個人宅は2007年に焼失してしまった。あの建物のレトロで素敵な趣は映画が語り継いでいるとはいえ、残念でならない。
それにしても、藤井少年が託した本にあんな大事なメッセージが隠されていたなんて! 時を超えて受け取る〝ラブレター〟は、もう返事が書けない分、愛おしくて哀しい。
イラスト&文 新目七恵(あらため・ななえ)
ライター、ZINE「映画と握手」発行人。「Love Letter」で劇場長編デビューした岩井監督も今や名匠。2020年1月17日(金)には新作が公開されます。題名は「ラストレター」! 中山美穂、豊川悦司も参加したと知り、いやがうえにも期待が高まっています。