2024年(監督:奥山大史 )
ロケ地:小樽、赤井川、余市、仁木、石狩、札幌、苫小牧

淡い冬の光に包まれて、笑っている3人がいる。少年と少女はアイススケートの生徒で、もう一人はコーチだ。冬山にひっそり出現した天然リンク(凍った小さな沼)は、人の目を気にせず練習できる穴場スポット。思い切り滑って転んで、踊っちゃったりもして。3人は距離を縮めていく――。
チラシを見るたび、あの多幸感が蘇る。と同時に、その後味わった切ない痛みも。映画「ぼくのお日さま」は、北海道の小さなスケート場で出会った3人の、ひと冬の物語だ。
主人公のタクヤ(越山敬達)は、夏は野球、冬はアイスホッケー少年団に所属する小学生。といっても、田舎町ゆえに他の選択肢はなさそうな感じで、実はどちらも苦手な様子。冬がきて、アイスホッケーの練習中だったタクヤは、リンクで華麗にジャンプするさくら(中西希亜良)に目を奪われる。
第77回カンヌ国際映画祭(2024年5月、フランス)の「ある視点」部門に出品され、受賞は逃したものの、スタンディングオベーションを浴びた話題作のロケ地が北海道らしい、という話を聞き、試写会に行ったのは昨年7月のこと。スケートシーンでは「もともと滑れる俳優さんなのかな。それとも特訓したんだろうか」なんて邪推をしたけれど、繊細な描写と美しい映像にすぐ引き込まれた。

彼女を見つめるタクヤに声を掛けたのが、コーチの荒川(池松壮亮)だ。フィギュア靴を貸し、滑り方を教えた荒川は、さくらとペアでアイスダンスへの挑戦を提案。練習は順調だったが……。
優れた映画は、大切なことをセリフにしない。この作品も、フィギュアを教わるタクヤがどんな気持ちなのか、さくらがどんな思いをコーチに抱いているのか、荒川がなぜタクヤに声を掛けたのか、言葉で説明したりはしない。それでも、私には伝わった。ワクワク感や年上への憧れ、小さな恋へのエールが。
また、タクヤは吃音を持っているのだが、友達や家族が特に触れず、当たり前に接する点にも好感を持った。道内に現存する最古の円形校舎・旧石狩小学校や石狩灯台(1957年「喜びも悲しみも幾歳月」の舞台だ!)、小樽・南樽市場、札幌・真駒内セキスイハイムアイスアリーナなど、どこか懐かしい建物群も、そうした優しい世界観を引き立てていた。
昨年9月、札幌で講演した奥山大史監督は「雪は余白を作りやすく、『時間経過』を表現できる映画的なもの。カメラを通すと温かみも感じます」と話していた。確かに、雪解けと共に終わったこの物語を振り返る時、胸にこみ上げるのは、雪の冷たさではなく、それに降り注ぐ陽光の柔らかさ。これから冬を迎えるたび、思い出すことだろう。
さて、これほど気に入った映画に出会えたのに、マヌケな私はパンフレットを買いそびれてしまった。だから手元にある、たった1枚のチラシを大事にしている。

文&イラスト 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。「ぼくのお日さま」は、道外では今も劇場公開中(2月28日時点)につき、DVD化はまだですが、一部の動画配信サービスで鑑賞可能です。ちなみに、ハンバート ハンバートの素敵な主題歌は、もともとあった曲です。偶然耳にした奥山大史監督がインスパイアを受け、プロット作りの参考にしたそうです。そんな縁から、本作の音楽はハンバート ハンバートの佐藤良成さんが担当されています。