1962年(監督:藏原惟繕)
ロケ地:函館、北斗、長万部、小樽、夕張

消灯し、真っ暗になった函館山ロープウェイ山頂展望台のクレモナホール。緞帳が開くと、眼前にパーッと函館の夜景が広がる。「わぁ」と歓声が上がる中、ろうそくに火がついたバースデイケーキが運ばれてきた。さっと吹き消し、明るくなった場内でポーズを決めるのは、映画スターの宍戸錠さん!「硝子のジョニー 野獣のように見えて」といえば、真っ先に思い浮かぶ光景。映画のシーンではない。2007年12月、本作を上映した函館港イルミナシオン映画祭での出来事だ。
「硝子のジョニー」とは、日本レコード大賞歌唱賞に輝き、紅白歌合戦の出場曲にもなった歌手アイ・ジョージの大ヒット曲。流行歌から映画が生まれるのはよくあるが、本作は精神的に少し幼いながらも純粋な心を持つ昆布取りの娘・みふね(芦川いづみ)が、競輪にのめり込む元板前のジョー(宍戸錠)、彼女を水商売に売ろうとする秋本(アイ・ジョージ)という2人の男性と出会い、裏切られながらも相手を信じる姿を通して〝突き詰めた愛〟を描くという内容。結ばれなかった恋の切なさを歌うシンプルな歌詞からイメージを大きく膨らませた物語といえる。蔵原惟繕監督は後年、北海道の地元紙に「地味な作品でお客さんも入らなかった」と回想しつつ、「僕としては好きな作品で思い出も多い」と明かしていた。
実は、私にとっても「硝子のジョニー 野獣のように見えて」は特別な1本だ。というのも、初めて参加した同映画祭で、初めて観た〝函館ロケ〟が本作。それまで古い邦画を熱心に観てこなかったこともあって、想像以上に熱量の高い演技と独特な世界観にびっくり。何より私を圧倒したのは、会場に集まった市民の反応だった。
「懐かしい…」。ため息のような感嘆をもらす観客が食い入るように見つめるのは、物語の背景として映し出される往時の函館競輪場や函館駅、青函連絡船。ロケ地に住む人にとって、映画はさまざまな郷愁を呼び起こす記録映像でもあることを知った瞬間だった。
上映後に声を掛けてみると、「昔この映画の撮影を見た」という女性がいた。聞けば、路地を歩くアイ・ジョージを知り合いと勘違いし、「しばらくね!」と声を掛け、撮影を止めてしまったという(笑)。その時はタイトルが分からず、リアルタイムで観れなかったそうだけれど、この映画祭で45年越しに鑑賞。「当時は21歳の新婚で、生まれ育った紋別から引っ越してきたばかりだったから、人恋しさもあったのかも。それにしても、そそっかしかったわねぇ」と笑う彼女の人生のひとコマが、ワンシーンの裏側につながっていることを知り、なんだか不思議な感慨が湧いた。ほかにも、「競輪の予想屋を演じた宍戸さんにアドバイスした」という現役のベテラン予想屋や、「海に入ってずぶぬれになった芦川さんが町の話題になった」と話す近隣町の住民など、本作に思い出を持つ人たちを探し歩き、連載記事にした経験が、「北海道と映画」をライフワークとする今の私の原点になった。
そんなことを思い出しながら、17年ぶりに観直した「硝子のジョニー 野獣のように見えて」は、芦川さんの熱演が異様な輝きを放つ快作! 私が生まれる20年も前の作品なのに愛着を感じるのは、函館の街で続く映画祭と、そこで出会った人たちのおかげである。
文&イラスト 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。函館港イルミナシオン映画祭はオリジナルコンテスト「シナリオ大賞」を通して映画&人材発掘にも取り組み、受賞作から「パコダテ人」(2002年、前田哲監督)~「消せない記憶」(22年、園田新監督)まで15本以上の映画が誕生しています。2024年12月、30回目の節目を迎える映画祭へ、ぜひ足をお運びください!
