1967年(監督:松山善三)
ロケ地:えりも、函館


「タイトルだけで、切なくも艶のある、あの独特な歌声がよみがえる。」とは、映画「ハナミズキ」(2010年、土井裕泰監督)を紹介した本コラム41回目(2022年5月号掲載)の書き出しだが、同じくヒット曲を軸にした映画「その人は昔」に、似たような感慨を抱く方もいらっしゃるのではないだろうか。
「その人は昔」は、歌手・舟木一夫のデビュー3周年を記念して1966年に発売されたレコードアルバムのタイトル(正式名は「こころのステレオ その人は昔 -東京の空の下で」)。異例のヒットを受け、舟木本人が主演する実写映画として作られたのが本作である。
幕開けの舞台は、北海道・えりもの百人浜。貧しい海町で育った青年(舟木)と少女(内藤洋子)が出会い、徐々に距離を縮めながら胸の内を語り合い、〝ここではないどこか〟への願望を募らせる。そして、希望を求めて東京へ駆け落ちするも、都会の誘惑に翻ろうされてしまう――。筋書きは単純だが、全編に散りばめられた舟木の歌が、物語に奥行きを与えている。
と言いつつ、初めて観た時、私は少し戸惑った。ミュージカルのようにスケール感のある楽曲が多く、音楽と一体化した、時にアバンギャルドな映像表現を中心に物語が進むからだ。
だがその後、映画の基になったレコードを聴いて納得。それ自体が、歌や音楽、朗読、自然音を含めて1時間近くある、物語仕立ての内容だったのだ! 作詞した松山善三が、映画版の脚本・監督も担当したと知ると、主題歌として流れる一般的な歌謡映画とは一線を画した構成の理由も理解できる。
目を見張るのは、前半の北海道シーンだ。コンブ漁を手伝ったり、馬に乗って野山を駆けまわったり。さらには、海岸で料理してはしゃいだり、牧場で大きなおにぎりを頬張ったり(笑)。えりもの雄大な自然の中、心を交わす2人が何とも純朴。
特に、ヒロイン・内藤洋子の可愛いこと! 「ルンナ」と名付けた愛馬と浜辺を散歩する彼女の姿、さらにこの時流れるキャッチーな歌「白馬のルンナ」が耳に残るだけに、東京での変貌ぶりに驚かされる。そうするうちに結末を迎え、冒頭に聴いた「その人は昔」の歌詞がよみがえり、ギュッと胸を締めつけられる。
舟木一夫といえば、デビュー曲「高校三年生」も映画化(1963年)された青春歌謡のシンボル。当時の世相を知りたくて『御三家歌謡映画の黄金時代 橋・舟木・西郷の「青春」と「あの頃」の日本』(藤井淑禎著、平凡社、2001年)を読んだところ、昭和40年前後は「異常に大量の歌謡映画が作られた」特異な時期だったとか。その背景には、テレビの普及で斜陽となった映画業界が、舟木ら人気歌手の歌謡映画に活路を見い出そうとした事情があり、製作費の抑えやすい日常、つまり恋愛や進路などをモチーフとした結果、「高度成長期という空前の激動期・過度期の見事な証言者」となったと分析している。
確かに劇中で舟木は、東京の印刷工場で働きながら、夜学で勉強にも励む。集団就職の盛んだった当時、故郷を離れ、同じように生きる若者も多かったことだろう。つい先月の朝日新聞本紙「声」欄にも、中学卒業後、昼は工場の事務員、夜は定時制高校に通ったという70代の女性読者が、舟木の歌う「高校三年生」を心の支えにしたという投稿が掲載されていた。
大好きなスターが、自分と同じように今をひたむきに生きている。その前向きな姿に目を輝かせ、スクリーンを一心に見つめる往時の観客に思いを馳せてみる。
ライター、ZINE「映画と握手」発行人。松山善三の監督デビュー作は、プライベートのパートナーでもある函館生まれの名女優・高峰秀子が主演した「名もなく貧しく美しく」(1961年)。聴覚障害を持つ夫婦の愛を描く人間ドラマは今観ても感涙モノ。そういえば、「その人は昔」にも聴覚障害のある気さくな男性が登場します。ちなみに松山氏は、『厚田村』『氷雪の門』(いずれも潮出版社)『依田勉三の生涯』(ハースト婦人画報社)など、北海道を舞台にした著書もあります。
