吉村 昭(文春文庫)
登場する地域:利尻

幕末、ペリーを始め多くのアメリカ人やイギリス人が来日する中、森山栄之助は彼らと英語で自由に話すことが出来た。彼は、鎖国下の日本においていかにして英語を身に付けたのか。その疑問を解く物語は、ラナルド・マクドナルドという名のアメリカ人青年が、小さなボートで利尻島に上陸するところから始まる。彼は、日本に憧れを持ち、日本語を習得してアメリカと日本の架け橋たらんとした。しかし、当時の日本ではそれは叶わず、彼は長崎に移送され幽閉される。ところが英語の必要性が日々高まる中、彼は長崎のオランダ通詞たちに英語を教えることとなる。その中の一人が森山栄之助だったのである。森山は、後に福沢諭吉が教えを請うほどに英語に熟達し、ペリー来航後の激動の日本で、オランダ語と英語の通訳として、不可欠の存在となった。つまり、ラナルドの夢を、教え子の森山が引き継いだのである。
ところでこの小説の中の私のお気に入りは、利尻島に上陸したラナルドが島民に話しかけ、日本語を覚えようとする場面である。そこには新しい言葉を知る喜び、言葉でコミュニケーションすることの興奮、それらが本来持つワクワクした気分が溢れている。そしてそこにこそ、彼がなぜ命を賭してまで日本を目指したかの答えが、詰まっていると感じるのである。
※当初の原稿に「ポルトガル語と英語の通訳として、不可欠の存在となった」とあった箇所は「ポルトガル語」ではなく「オランダ語」でした。本稿では訂正しています。(2021.5.17)